DX人材の活躍の場はどこに? リスキリングだけでは賃上げが実現しない理由:人材投資をムダにしないために(2/4 ページ)
技術革新が目まぐるしく進む中で、リスキリング(学び直し)の重要性が叫ばれている。新しい知識や技能を習得することは重要だが、学び直しだけで本当に賃上げは実現できるのか。
リスキリングとは、新しい仕事に就くためや、新しい時代に求められるスキルの変換に対応するための学び直しを意味します。一方、いま就いている仕事の能力を上げる学び直しについてはアップスキリング(upskilling)と呼ばれますが、昨今の課題となっているDXやGX、AIなどの学び直しは、新しい仕事に就く場合といま就いている仕事の能力を上げる場合のどちらにおいても必要とされています。
そのため、ここからはリスキリングもアップスキリングも含め、時代変化への適応を目的とする知識とスキルの習得という意味合いで“学び直し”と表現したいと思います。
「学び直し」で賃上げは実現できる?
技術革新が目まぐるしく進む中で、学び直しによって新しい知識や技能を習得することは重要なことです。ただ本当に、学び直しで賃上げは実現できるのでしょうか。先ほど示した5つの賃上げパターンに照らし合わせて、考察したいと思います。
まず1つ目に挙げた、ベースアップや定期昇給、最低賃金などについて。これらは労働者全体の賃金水準を引き上げるものです。毎年交渉が行われてはいますが、学び直ししたか否かで個々の労働者の賃上げを交渉するわけではなく、学び直しの推進が直接的に影響を及ぼすとは言えません。
それに対し、2つ目と3つ目に挙げた人事考課による職能レベル上昇と昇進については、個々の労働者の学び直しが考慮される可能性があります。例えば、会社が指定した知識や技能を学び直しで習得した場合は職能等級を上げる、あるいは昇進の条件にするといった形で人事制度と紐(ひも)づけることになれば、学び直しの推進が賃上げと連動していきます。
それに対し、4つ目の成果連動パターンについては、学び直しても、それによって何らかの成果が生み出されなければ賃金は上がりません。学び直ししたかどうかではなく、学び直しが成果向上にまでつながって初めて賃上げが実現します。
同様に、5つ目に挙げた転職についても学び直ししただけでは賃上げにつながるかどうか分かりません。転職先の賃金水準が高い場合は、学び直しに関係なく賃金が上がります。学び直しが賃上げにつながるのは、人材としての市場価値が高まった場合です。しかし、転職の際に、実務経験も実績もないのに習得した知識や技能だけで評価されて市場価値が高まるのは、弁護士や税理士資格を取得するような特別なケースに限られます。
仮に学び直しでAIに関する知識や技能を学んだとしても、その習得水準はまちまちです。AIの専門家として認められるほど技能を習得するのは極めて難易度が高く、もしある程度専門性を磨くことができた場合でも、賃金アップを伴う転職を実現させるには大抵の場合、実務経験や実績が問われます。
関連記事
- 「社員を束縛」してきた日本企業 少子化時代のあるべき採用の形とは?
三井住友海上は2024年度入社の新卒採用から、内定受諾の辞退者に中途採用の優遇枠を用意する取り組みを始める。大手企業が採用対象者の間口を広げようとする背景には、人手不足や少子化など、抗いようのない環境変化の影響がある。 - 氷河期支援、正規30万人増めざす→実績は3万人 国の施策が機能しない根本的な矛盾とは?
政府が直近3年間で就職氷河期世代の正社員を30万人増やす目標を掲げていたが、実績はわずか3万人に留まる。政府の施策のどこに問題があるのか。 - 名ばかりの「ジョブ型」「同一労働同一賃金」……国の施策が実効性を伴わないワケ
政府の「働き方改革」に関するさまざまな施策。「ジョブ型雇用」「同一労働同一賃金」「産後パパ育休」――。いずれも重要な施策だが、実効性が伴わず“看板倒れ”と言わざるを得ないものも少なくない。実効性が伴わない根本的な原因はどこにあるのか。 - “とりあえず出社”求める愚 「テレワーク環境」を整えない会社に未来はないと思うワケ
コロナ禍で高まったテレワーク推進機運は、経団連の見直し提言もあり、実施率が下がっている。テレワーク環境が整っていなければ、ワークライフバランス環境で見劣りし、他社の後塵を拝することにもつながる。 - 偉ぶる「若手管理職」を生み出さないために 「脱・年功序列」成功のカギは?
NTTをはじめ、20代でも管理職起用の道を開く企業が増えている。しかし、単に制度を導入するだけでは年少者に年長メンバーが反発するなど軋轢も生じうまくいかない。「脱・年功序列」を成功するために企業が注意すべきことは何か。 - 30年横ばい……日本人の給与アップ阻む「労使間の格差」 収入増へ個人ができる5つの方法とは?
日本人の給与は30年ほぼ横ばい。賃金アップが実現しない背景に、従来の賃上げ交渉の限界や「労使間の格差」を筆者は指摘する。格差を克服するためには、働き手の「エンプロイアビリティ(雇用される能力)」を磨くことが必要になる。「労使対立」から「労使互恵」へと転換する新時代の労使の姿を考える。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.