「過去最大の投資」──ABEMA責任者が語るサッカーW杯放映権獲得の舞台裏と狙い:『ウマ娘』マネーが後押し(2/5 ページ)
ABEMA責任者にサッカーW杯放映権獲得の舞台裏と狙いを聞いた。
過去5大会の主役はテレビ、放映権料高騰で民放撤退
02年の日韓大会から前回18年のロシア大会までの過去5大会、サッカーW杯の主役はテレビだった。W杯放映権はNHKと民放で構成する「ジャパンコンソーシアム」(JC)が、FIFA(国際サッカー連盟)の仲介役を務める電通経由で購入するというのが慣例だったのだ。放映権料の高騰を抑制するとともに、テレビ局同士が連携することで番組制作を効率化する狙いもあった。
だが、JCの狙いとは裏腹に放映権料は年々高騰。10年の南アフリカ大会から民放各社が赤字を計上するようになった。カタール大会に向けて、JCの動きに注目が集まる中、朝日新聞は21年7月28日付けの記事で、JCと電通の交渉が暗礁に乗り上げたと報道。NHKが単独で購入した98年フランス大会の国内放送権料は5億5000万円だったのに対し、カタール大会に向けて電通がJCに示した金額は200億円を超え、金額面で折り合いが付かなかったという。
「ABEMA総合プロデューサー」兼務の藤田晋社長の決断
そうした状況の中、名乗りを挙げたのがABEMAだった。同社によると「ABEMAとして開局から6年経って、W杯という世界的コンテンツを手掛ける力が今ならある」という思いと、一連の報道で「このままだとW杯が日本で視聴できないかもしれない」という危機感も覚えた同社の藤田晋社長が獲得に踏み切ったという。
藤田社長はサッカー好きとしても知られ、18年10月にFC町田ゼルビアの経営権を取得。同クラブはサイバーエージェント傘下となった。すでに撤退しているものの、08年までの2年間、東京ヴェルディの経営を手掛けたこともあり、ABEMAの「総合プロデューサー」も兼務する藤田社長が、放映権獲得に動いたのは納得感がある。
最終的にABEMAが参入し、NHK、テレビ朝日、フジテレビの4社で契約がまとまった。1人の社長の英断が、日本のサッカーファンの危機を救った瞬間だった。
ABEMAが放映権獲得交渉に参加していることは、サイバーエージェント社内でも一部の限られた経営幹部にしか共有していなかったという。現在、W杯事業の責任者を務める塚本局長でさえ「自分が知ったのも放映権を獲得した後だった」と明かすように、文字通り、極秘プロジェクトだったのだ。
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