「大企業=成功」という呪縛から解放されよ 魅力的な職場に出会うにはどうしたらいいのか:大愚和尚のビジネス説法(2/3 ページ)
住職としてだけではなく、起業家としての顔も持つ大愚和尚。経営者の研究会や、YouTube配信を通して多くの経営者含むビジネスパーソンと触れ合ってきた経験から、真に魅力的な職場、優秀な人材が選ぶ企業傾向が見えてきたという。「僧侶になるのは嫌だ」と、寺の外の世界に飛び出し苦悩した自身の経験を振り返りつつ語る。
私は大学院に通いながら起業します。私自身が身体を痛めたことから、治療院やリハビリトレーニング施設の運営を始めたのです。売り上げが立つようになると、事業拡大のために1億円近い借入を起こしました。夢中で働いたかいあって、借金を5年で完済。役員報酬も好きなように決められるようになりました。
しかし、従業員も増え、新規事業も立ち上がるようになると、今度は、人の問題に突き当たります。社員に対して、技術は教えられる、知識も教えられる。けれども、人格はなかなか教えられない。人間関係の問題に行き詰まったとき、売り上げや報酬の金額を上げるだけでなく、人が成長する組織を作る必要を感じました。そのためには、私が小さな欲に捉われていてはいけない。私自身が人として成長しなければならない。
私は仏教に指南を求めました。あらためて修行をしたい。学問知識としての仏教ではなく、僧侶資格を得るための修行ではなく、自分の心を修め養う修行をしたいと、強く思いました。そこで社長の座を後進に譲り、3年をかけてインドから日本までの仏教伝導ルートを巡ったのです。そして訪れたミャンマーのパガンで、人生を変える物語に出会います。
魅力ある「夢」が、魅力ある組織をつくる
パガン遺跡は、11世紀から13世紀に栄えたパガン王朝の跡で、カンボジアのアンコールワット、インドネシアのボルブドール遺跡と合わせて、世界三大仏教遺跡と呼ばれています。そこで私が心動かされた物語とは、パガン王朝の初代アノーヤター王の国づくり哲学でした。よりよい国づくりのためには、優れた生き方の指針が必要だとして、アノーヤター王は、数ある教えの中から仏教を選びました。仏教が、自我を離れて、少欲知足に暮らし、勤勉に働き、戒律を守って、自らの身口意(しんくい)を整え、人々と調和し、社会に貢献し、自助努力によって人生を切り開く生き方を説く教えだからです。
アノーヤターは、自ら仏教に帰依し、寺院や仏塔を建設して、仏教の教えを広めます。仏教が民衆に広く浸透した結果、パガン王朝は大いに繁栄し、その繁栄ぶりはシルクロードを旅して広く世界を知る行商人が「このような豊かな国は見たことがない」と感嘆するほどだったといわれています。
パガンを訪れて以降、私の中に「小さくとも美しい寺町を創ろう」という誓願が芽生えました。人がいて、生きがい(仕事)があって、町ができる。経済的な豊かさの根源は、人々の自由で規律ある生活と、精神的な豊かさにある。そう確信した私は、自分の使命を、「仏教を社会に伝え広めること」に定めました。と同時に、小さくとも美しい「寺町を創造しよう」これが私の切なる願いとなったのです。
2015年、私は福厳寺の住職に就任しました。そして、「寺町構想」に賛同する企業の幹部を対象とした、経営マンダラ研究会を開催し始めました。そこに参加するベンチャー各社には、それぞれ魅力的な物語があります。目指したい方向性や、実現したいビジョンがあります。そして何より、ベンチャーゆえの活気、身軽さ、柔軟さがあり、主体的で元気なのです。
また、私がこれまで研修を務めたベンチャー企業を見ていると、魅力的な「夢物語」に邁進(まいしん)する経営者がいて、その夢にひかれてスタッフが集まっている傾向があります。今や大企業でも経営破綻してしまう時代です。本当に優秀な人は企業規模だけを見て会社を選んだりはしないものです。
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