マツダの中期経営計画を分析する:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)
マツダが発表した中期経営計画では、時間軸ごとにフェーズ分けした計画が記されている。各フェーズを読み解いていくと……。
ラージ群はどうか
ではラージ群はどうなのかといえば、こちらは話題の3.3リッター直6ディーゼルユニットが軸になる。ディーゼルもまた燃料の雑食性が高いので、バイオディーゼルやe-fuelへの備えができていることになる。
さらに、北米を戦略の軸に据える以上、ZEV規制(EVなど排出ガスを出さない無公害車を一定比率以上販売することを義務付ける制度)への対応は極めて重要になる。
JETROのレポートによれば、「米国カリフォルニア州大気資源委員会(CARB)は8月25日、州内で販売する全ての新車乗用車(小型トラックを含む)を2035年までに無排出車(ゼロエミッション車:ZEV)にする目標の達成に向けた規制『アドバンスド・クリーン・カーズII(ACC II)』を正式に承認した」〜中略〜「同規制でZEVに含まれる車両は、プラグインハイブリッド車(PHEV)、バッテリー式電気自動車(BEV)、燃料電池車(FCV)。PHEVは電動での実走行距離が50マイル(約80キロ)以上である必要がある。また、自動車メーカーが販売できるPHEVの割合は、全ZEVの20%以下となっている。BEVとFCVに関しては、充電1回当たりの走行距離が150マイル(約241キロ)以上で、急速充電が可能であることなどが条件だ」という。さらに問題なのはカリフォルニア州でこれが実現すれば全米で17州が右へならえで従う可能性があるという点だ。
極めてアグレッシブな政策であり、本当に実現できるかどうかは疑わしい。というのもバイデン政権が打ち出したインフレ抑制法と対立しているからだ。インフレ抑制法では、バッテリーに使用する主要原材料、すなわちレアメタルの調達先を米国もしくは米国とFTAを結んだ地域で生産された原材料が40%以上使われている場合にのみ、税優遇(実質的な補助金)を受けられるとしている。
インフレ抑制法の狙いは、端的に言えば中国つぶし。このまま中国のやりたいようにさせていたら、早晩米国は中国に経済的に負ける。経済が負ければ軍事予算でも負けるのは明白なので、そうなればもう、米国の覇権時代そのものが終わることになる。
さてこの2つの法は相いれない。インフレ抑制法に従って入手できるバッテリー原材料は限られており、おそらく17州の需要を満たすことはできない。あるいは仮にそれが可能であったとしても、バッテリー価格は圧倒的に売り手市場になり、BEVの価格は今以上に高くなる。だからといって、インフレ抑制法の方を止めれば、米国は中国の軍門に降ることになる。
関連記事
- なぜ「プリウス」はボコボコに叩かれるのか 「暴走老人」のアイコンになる日
またしても、「暴走老人」による犠牲者が出てしまった。二度とこのような悲劇が起きないことを願うばかりだが、筆者の窪田氏は違うことに注目している。「プリウスバッシング」だ。どういう意味かというと……。 - なぜSUVは売れているのか 「しばらく人気が続く」これだけの理由
街中でSUVをよく見かけるようになった。各社からさまざまなクルマが登場しているが、なぜ人気を集めているのだろうか。EV全盛時代になっても、SUV人気は続くのだろうか。 - マツダCX-60は3.3Lもあるのに、なぜ驚異の燃費を叩き出すのか
マツダCX-60の販売状況が、なかなか好調のようだ。人気が高いのはディーゼルのマイルドハイブリッドと純ディーゼルで、どちらも3.3Lの直列6気筒エンジンを搭載している。それにしても、3.3Lもあるのに、なぜ燃費がよいのだろうか。 - なぜプリウスは“大変身”したのか トヨタが狙う世界市場での逆転策
トヨタが新型プリウスを発表した。発売はまだ先なので、車両の詳細なスペックなどは分からないものの、その変貌ぶりが話題になっている。それにしても、なぜトヨタはこのタイミングで発表したのか。背景にあるのは……。 - 新型クラウンはなぜ大胆に変わったのか
新型クラウンの期待が高まっている。国産車のネームバリューとしてはトップグループだろうが、セダンは“オワコン”の扱われている。そうした中で、クラウンはなぜ変わったのか。 - 「水素エンジン」は本当に実用化するのか トヨタの本気が周りを動かし始めた
水素エンジンが急速に注目を浴びている。燃料電池による水素利用によって、水素エンジンの可能性を引き上げたわけだが、本当に実用化するのだろうか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.