「忘年会に誘うだけでハラスメント?」と悩む上司が見落としている、飲みニケーションの本質:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(3/3 ページ)
「若い社員が忘年会に乗り気じゃない」「ハラスメントと言われるかも」など、飲み会問題に頭を悩ます管理職は少なくない。「飲みニケーション」は何のために生まれたのか、どうしたら若い世代と分かり合えるのか――そのヒントを、河合薫氏が解説する。
上司と部下が、正面から向き合える場所
今から17年前の2005年2月。稲盛和夫氏(故人)が仲間とともに1959年に創業した京セラの「コンパルーム」を訪問させていただきました。コンパルームの原型は創業当初、稲盛さんの自宅で社員みなで鍋を囲んだこと。
私の訪問時に案内をしてくれた伊藤謙介氏(89年6月から99年6月まで社長)は、こう話してくれました。
「あの頃はお金もなかったし、私なんて同僚3人で6畳一間に住んでいた時代ですから。『とにかく今は厳しい状況にあるけど、みんなで心を一つにして、同じ志を持って、素晴らしい会社をつくっていこう』って。酒飲んで、しゃべって、ぶつかり合って。それがコンパルームに引き継がれているんです。コンパルームは、全ての工場、海外支店にもあって、海外スタッフもコンパルームって呼んでいます」
本社にある100畳敷きのコンパルームで、私たちも“模擬コンパ”を体験しました。
飲み屋じゃなく会社のコンパルームという安心感と、微妙な緊張感の中だと自然と誠実になれました。場があたたまると、立場を超えたコミュニケーションができるのも不思議でした。
伊藤さんによれば、実際コンパでは最初から最後まで仕事の話で、中には「『もっと残業代を出してくれ!』と社長に直談判する社員もいる」とか。とにもかくにも“コンパ”は、人間臭さがあふれる場であり、参加する人たちの働き方、働かせ方をいい方向に向かわせるための本音を語り合う場になっていたのです。
コンパの語源はドイツ語の「Kompani(=仲間)」です。
上司は、部下の迷いや不安を知ることができれば、首尾よくサポートできるし、能力発揮の機会を考えられる。部下は、仕事から離れた上司の「人」としての振る舞いを知れば、「ああ、自分と同じなんだ」と安堵したり、「あんな風になりたい」と思えたりもする。
会議室であれ、食堂であれ、「部下と正面から向き合いたい」という気持ちさえあれば、どうにでもなる。「いやぁ、会議室じゃ、堅いっしょ」というのであれば、コンビニで買ったスナックを置くだけでも空気は変わります。
その先にたまたま、「じゃ、一杯やろうか」とか、「酒でも飲みながら、ちょっと話をするか」と、職場ではなかなか話すことができないことやら、就業内では持てなかった時間を補うための飲み会がある。プラスαを補うために酒場を利用するから、飲みニケーションが意味をもつのではないでしょうか。
「でも、お酒が入ったほうがリラックスするし……」って?
いえいえ、酒を飲んでリラックスするのは、上司だけ。必要なのはお酒ではなく、「部下と1人の人間として向き合う」覚悟です。
今年の忘年会。社内で、就業時間内に、やってみてはいかがでしょうか?
案外、上司も楽、かもしれませんよ。
河合薫氏のプロフィール:
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)『THE HOPE 50歳はどこへ消えた? 半径3メートルの幸福論』(プレジデント社)がある。
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