理系学生に告ぐ、日本の自動車産業は「オワコン」ではない:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/5 ページ)
ここ数年「日本オワコン論」が語られ、次なる衰退は自動車産業で「数年後には日本が誇るトヨタは滅びる」との主張もある。しかし、それは大前提が間違っている。
「世界はすでにEVに舵(かじ)を切った」とはいえない現実
実際にはEV推進の旗頭であるEU委員会ですら、26年までの内燃機関の扱いをどうするかについて、モラトリアムを決め込む始末であり、とてもではないが「世界はすでにEVに舵(かじ)を切った」とはいえない。むしろ「EVにどの程度舵(かじ)を切ったらいいかを、各自真剣に模索中」だからこそ決定を26年まで見送ったのである。
「EVは部品点数が激減するから安くなる」という説が本当なら、EVは誕生した瞬間から内燃機関のクルマより安くなければおかしい。しかし、現実は全くそうなっていない。むしろEVを盲信する人たちが「内燃機関とモーターとバッテリーを積む無駄の多いシステム」と批判するハイブリッドは、最安値のトヨタ「アクア」だと200万円、同じくトヨタの「ヤリス」で201万円。日産「ノート」は221万円で手に入る。
なのにEVの最安値は登録車で日産「リーフ」の371万円から。軽自動車の日産「サクラ」ですら240万円からという具合で、どうも話と現実が合致しない。その理由は割と単純で、EVの車両価格の4割から5割を占めるバッテリー価格が高いからだ。
EV普及の障害は
現在EV普及の障害となっている問題点は大きく2つある。1つは原材料の大幅な値上げである。筆者は以前から、鉱物資源の生産量は急には増やせないので、EVで需要が急増すれば、バッテリー価格は必ず上がると主張してきた。
EVメーカーの代表であるテスラはここ数年販売台数を毎年倍に押し上げる好調振りだが、21年から再三にわたって車両価格の値上げが繰り返されており、「バッテリーは、量産すればどんどん価格低減が進む」という見立てはテスラの価格変遷によって否定されている。テスラが特別技術的に遅れた会社だとでもいうなら別だが、誰もそんな風には思っていないだろう。
国内の自動車メーカーも同一車種で100万円もの値上げがまもなく行われそうだ。まずはこうした価格の変化をぜひ自分自身の目で見ていて欲しい。バッテリー価格は上がっているのか下がっているのか。それを見れば、どちらが言っていることが正しいかは想像が付くと思う。
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