理系学生に告ぐ、日本の自動車産業は「オワコン」ではない:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/5 ページ)
ここ数年「日本オワコン論」が語られ、次なる衰退は自動車産業で「数年後には日本が誇るトヨタは滅びる」との主張もある。しかし、それは大前提が間違っている。
「充電事業の採算性」も問題
もう1つの問題は、充電事業の採算性である。実際にEVを使ってみるとよく分かるのだが、基本は自宅で普通充電によってゆっくり充電して使うものだ。高電圧による高速充電は、程度によるものの電力網に負荷を掛けるだけでなく、バッテリーを痛める。だから外出先での高速充電器は日常的には使わない。
クルマを大事にする人の中には「このクルマはまだ一度も高速充電していません」という人すらいる。それは特殊なケースだとしても、普通は、遠出する時だけやむを得ず使うのが実態なのだ。
現在この高速充電器は1充電30分の制限が掛かっており、つまりは1台の充電器は1日最大で48回しかビジネスチャンスがない。それも1秒たりとも無駄にしないとしてである。仮に充電1回で1000円の料金を取ったとしても、稼働率がパーフェクトの100%で1日の売り上げは4万8000円。
現実の話としては稼働率が20%を超えると充電待ちが出るということから、そのくらい回転率が良かったとして、計算上9600円、1000円刻みなのでまあ1万円というところである。しかもこれは売り上げで、ここから、売上原価として電気代や充電器の減価償却、土地代などが引かれる。保守費用だ、バックオフィスの人件費だと間接費用をカウントしていけばキリがない。とてもビジネスにはならない。赤字経営一直線である。
補助金を使おうがメーカーが費用負担をしようが、普及率が一定以上になれば、その費用は税金か車両価格に転嫁せざるを得なくなる。そういう事業デザインはサステイナブルとはいえないのだ。
関連記事
- なぜSUVは売れているのか 「しばらく人気が続く」これだけの理由
街中でSUVをよく見かけるようになった。各社からさまざまなクルマが登場しているが、なぜ人気を集めているのだろうか。EV全盛時代になっても、SUV人気は続くのだろうか。 - なぜプリウスは“大変身”したのか トヨタが狙う世界市場での逆転策
トヨタが新型プリウスを発表した。発売はまだ先なので、車両の詳細なスペックなどは分からないものの、その変貌ぶりが話題になっている。それにしても、なぜトヨタはこのタイミングで発表したのか。背景にあるのは……。 - マツダCX-60は3.3Lもあるのに、なぜ驚異の燃費を叩き出すのか
マツダCX-60の販売状況が、なかなか好調のようだ。人気が高いのはディーゼルのマイルドハイブリッドと純ディーゼルで、どちらも3.3Lの直列6気筒エンジンを搭載している。それにしても、3.3Lもあるのに、なぜ燃費がよいのだろうか。 - なぜ「時速5キロの乗り物」をつくったのか 動かしてみて、分かってきたこと
時速5キロで走行する乗り物「iino(イイノ)」をご存じだろうか。関西電力100%子会社の「ゲキダンイイノ」が開発したところ、全国各地を「のろのろ」と動いているのだ。2月、神戸市の三宮で実証実験を行ったところ、どんなことが分かってきたのだろうか。 - なぜ「プリウス」はボコボコに叩かれるのか 「暴走老人」のアイコンになる日
またしても、「暴走老人」による犠牲者が出てしまった。二度とこのような悲劇が起きないことを願うばかりだが、筆者の窪田氏は違うことに注目している。「プリウスバッシング」だ。どういう意味かというと……。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.