相鉄・東急「新横浜線」開通で影響する16路線を読み解く:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(6/7 ページ)
2023年3月に開業予定の「新横浜線」は、過去最大といえるほど複雑な鉄道運行計画になっており、9社局16路線が関連する。本稿では、東急電鉄と相模鉄道の発表をもとに、各社の思惑などを考察しつつ、最後に2つの提案をしたい。
西武鉄道と東武鉄道の考え方
新横浜線の運行に関して、相模鉄道と東急電鉄以外の会社からは発表がない。JRの全国ダイヤ改正発表に合わせるつもりだろう。慣例によると毎年12月の第3週金曜日で、今年も12月16日に発表された。ただし、埼京線、JR・相鉄直通線に関する特記事項はない。運行本数は変わらず、時刻が微調整されるか程度かもしれない。来週以降、各社から順次ダイヤ改正の発表があるはずだ。
西武鉄道と東武鉄道は報道などで意思を表明している。西武鉄道は新横浜駅に直通しない。理由として「新横浜駅方面は東横線内で同一ホーム乗り換えで対応できる」からだ。しかし、東武鉄道は「新横浜駅に直通する。東海道新幹線接続が魅力」とする。
西武鉄道は休日に西武秩父〜横浜〜元町・中華街間で、有料着席列車「S-TRAIN」を運行している。西武鉄道沿線の人々にとって、横浜中心部、中華街を乗り換えなしで結ぶルートに価値がある。東海道新幹線に乗るなら、池袋乗り換えでJR山手線に乗り、東京駅または品川駅に向かうだろうという考え方だ。
東武鉄道は新横浜直通を希望している。東武鉄道から東横線方面の乗り入れは1時間に2本程度。これを東急側では「新横浜折り返しの急行」として扱うだろう。12月16日に発表されたダイヤ改正によると、新横浜直通列車は平日に12本が設定される。それ以外は元町・中華街行きを残すようだ。
西武鉄道と東武鉄道の考え方の背景には「車両走行距離の精算」がある。相互直通運転の場合「他社の乗り入れ車両を借りて自社で運行する」と解釈する。相模鉄道の車両が東急東横線で走った場合、東急電鉄が相模鉄道の車両を借りて営業したわけだ。だから車両レンタル料を支払う。しかし、相互直通運転の場合は、逆に相模鉄道が東急電鉄の車両を借りて営業することがある。そうなると互いにレンタル利用を精算する必要がある。
しかし、すべての車両が借りた距離を計算し、現金でやりとりするのは面倒だ。そこで、お互いの保有車両をお互いの路線で同じ距離で走らせて相殺しようとなった。これなら、運行計画をつくって車両を割り当てた段階で相殺できる。直通区間だけで等距離にならないならば、相手先の線路だけ往復して帳尻を合わせる。これが相互直通運転の基本だ。
車両走行距離相殺のために、相手先の区間だけを走る事例もある。先頃、東急電鉄の車両が試運転し、相模鉄道の横浜駅に現れた。東横線の横浜駅は04年に地下へ移転しているから、18年ぶりに東横線の電車が地上の横浜駅にやってきたことになる。横浜駅は本来の直通ルートではないけれども、精算運転として定期的に走る機会がある、またはダイヤが乱れたときに行き先を変更して走行できるか、試運転したようだ。
相互直通運転が一直線につながっていたら、精算運転は簡単だ。しかし相手先で2方向に分かれてしまう場合、精算のための運行計画がもっと複雑になる。西武鉄道は元町・中華街行きに絞って単純化し、東武鉄道は複雑になっても新横浜駅行きを組み込んだといえそうだ。あるいは、西武鉄道の車両は相模鉄道の保安装置を搭載しないという理由が考えられる。
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