「iPhone 14が売れていない」とささやかれる本当の理由:本田雅一の時事想々(4/4 ページ)
先日アップルのティム・クックCEOが来日し、日本との結びつきをアピールした。その背後で「iPhone 14が売れていない」というアンケート結果などが話題になっている。こうした話題を正しく読み解くには、アップルを取り巻く市場の変化を知る必要がある。どういうことかというと……。
“計画的長寿命化”を図るアップル
こうした部分は、毎年のようにデジタル製品市場にイノベーションをもたらしてきたかつてのアップルとは異なる部分だが、それは現在のデジタル製品市場がアップル自身が望んで、さまざまな刷新のもとに構築してきたものだからとも言える。
iPhoneに期待されるのは刷新ではなく、現在のiPhoneを最新技術でどこまで高められるか、そして所有している期間、ずっと魅力的なハードウェアであることだ。いずれ買い替えるのだから、買い替える時にも魅力的であれば、多少高価であってもiPhoneを選ぶだろう。
この戦略を筆者は”計画的超寿命化戦略”と呼んでいる。かつて、計画的陳腐化のために無為に設計やデザインを変更していたGMの戦略をもじったものだが、アップルはこの戦略を今世紀に入ってから、ずっと改善を図りながら続けてきた。
毎年のように発売されるiPhoneに新鮮味が薄れてきているのは、そうした長寿命化戦略の影響もある。
が、そんなアップルの製品にあって、今年は他を圧倒する製品が一つ生まれた。と書き始めるとApple Watch Ultraを想像するかもしれない。確かにこの製品は新しい挑戦だ。しかし、Apple Watch Ultraは”あらゆる人に向けた”ベストな選択肢というわけではない。
特定のアスリートにとって重要な機能と性能を追求することで、こだわりをもつユーザーに訴求し、身に付ける製品としてのブランド価値へと転換しようとしたプロジェクトだ。
では、他を圧倒する製品とは何か。現在のアップルの力をまざまざと見せつけた、AirPods Pro(第2世代)だ。音楽を楽しむことが主であるイヤホンなのだから、音質が重要視されるのはもちろんだが、この製品はありとあらゆる角度から体験の質を高めている。
他を圧倒するAirPods Proの魅力
AirPods Proは、第2世代でオーディオ専業メーカーに比肩する音質を手に入れた。今回はその部分を掘り下げはしないが、イヤホンとしてそこは大前提の基礎となる価値だ。しかしこの製品の本質的な価値は、音質の改良だけにとどまっていないことだ。
内蔵マイクの音質、通話時に相手に届く音から周囲の騒音を遮断する機能は、業界随一と言っていい。幹線道路の脇で通話をしていても不自然にならず、コンビニやスーパーで店内放送が流れている中で通話しても、相手にはほとんどそれらが聞き取れないレベルだ。
アクティブノイズキャンセリング、すなわち使用者を取り巻く騒音を消す機能も、取り除く音の周波数帯、抑えるレベルともに、こちらも業界トップと言っていい。これらは信号処理技術の改良とともに、内蔵チップ、つまり半導体も自社開発しているからできることだ。
さらに音楽配信サービスApple Musicで、追加料金なしで配信している立体音響アレンジの楽曲を楽しむ際に、より優れた立体音場が再現できるよう音響設計がなされている。その体験の質を高めるため、耳の立体的な形状をiPhoneのFaceIDカメラで捉えてパーソナライズする機能まで統合した。
こちらもイヤホン本体の改良はもちろん、iPhoneのFace IDカメラ、Apple Musicでの空間オーディオ作品配信サービスという合わせ技がなければ実現できないことだ。
さらにアップルは聴覚障害が懸念されるとWHOが定めている騒音レベル(80dB)を超える環境でこの製品を装着している場合、ノイズ抑制機能をオンにしていなくとも自動的に80dB以下にピーク騒音を抑えるという、ヘルスケア機能の領域にまで踏み込んだ。
AirPods Proはアップル製品との組み合わせで使うことしか想定されていないが、その分、これまでも知られていたように使いやすく、接続などのトラブルも最小限に抑えられている。
このレベルで製品の完成度を高めている例を、筆者は思いつかない。
現在のアップルには、かつての派手なイノベーションを繰り返すイメージはない。だが、一方で製品ジャンルを掘り下げる深みは、ライバルが到達しにくいところまで進んでいる。
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