JR東日本がこのタイミングで「銀行業」に参入した理由:意外となかった(2/3 ページ)
JR東日本が、銀行業への参入を発表した。鉄道会社が銀行ビジネスを手掛けることは意外ではないが、なぜ今まで実現してこなかったのか。その背景には、日本の経済界そのものの構造が関係しており……。
日本企業そのものがグループ化している
かつて、「六大企業集団」という言葉があった。現在は当時ほど存在感はないものの、旧財閥を核として企業がグループ化し、その企業同士が相互に株式を保有、あるいは財閥系銀行がメインバンクとなり、企業上層部が懇親会を持つだけではなく、企業グループの子女が縁戚関係を結ぶ状況がある。
三井グループ、住友グループ、三菱グループ、芙蓉グループ、三和グループ、第一勧銀グループがあって、この6つのグループに日本の大手企業の多くが入っていた。その中心を担っていたのが、銀行や商社である。
鉄道会社が複数の多様な企業や職種を包括するビジネス集団なら、六大企業集団はその鉄道をも含む巨大ビジネス集団である。鉄道会社はそのシステムの一部にすぎないのだ。
六大企業集団に入っている鉄道会社を見てみよう。芙蓉グループには京浜急行電鉄と東武鉄道があり、三和グループには京成電鉄、南海電気鉄道、阪急阪神ホールディングス(と阪急電鉄)、JR東海、第一勧銀グループには西武鉄道と京王電鉄がある。
東急グループは創始者が渋沢栄一である一方、メインバンクは三菱UFJ銀行である。近鉄グループホールディングスや小田急電鉄も三菱と関係がある。鉄道、特に私鉄と六大企業集団とは縁が深いのである。
三井、住友、三菱のように金融、商社、重化学工業を中心にする六大企業集団では「関連している」といえるくらいだが、その他の企業集団では鉄道会社が重要な位置を占めている。
日本の企業全体が既にグループ化している状態が戦前から続く中、鉄道会社が多角化しようとしても、金融のような既に確立された部門には手を出しにくい側面がある。大手私鉄は都市部に路線網を持っており、都市部は六大企業集団のメガバンクがビジネスを展開している。沿線ビジネスとして都市部向けの地方銀行を作るのも、メインバンクの関係から難しい。
鉄道会社が大きな銀行をメインバンクとし、ほとんどの鉄道会社が系列のカード会社と提携している状況で、銀行ビジネスに参入することは経済界の構造上難しいものがある。
その中でJR東日本は独自の取り組みを進めていた。
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