NHKネット進出の欺瞞 稲葉新会長が取り組むべき小泉政権の“宿題”とは(2/3 ページ)
NHKの新たな会長に元日本銀行理事の稲葉延雄氏が就任することが決定した。リコー出身の経営者がNHKでいかなる改革の道筋をつけるのか、大いに注目されるところだ。
一筋縄ではいかないNHK改革
そんな中で公共放送を掲げたNHKが国民から一律で受信料徴収することが正当なものと考えられるのか、という議論は以前にも増して高まりつつあるといえます。だからこそ、NHKはその必要性を増すべくネット業務の拡大を目論むわけなのですが、そこには民業圧迫という民間事業者の反発が付いて回るわけで、一筋縄ではいかないというのが現状なのです。
ならばいっそのこと民業に委ねられる業務は分割民営化し、真に公共放送にふさわしい部分だけを公共放送NHKとして残せばいいのではないか、という議論になっていくわけなのですが、これがまたそう簡単な話ではないのです。
NHK民営化に反対の民放各社 事実上の“援軍”に
分割民営化論は簡単に言うと、報道や教育部分を公共NHKとして残し、民間放送と業務的にダブるドラマ、バラエティ、スポーツ中継などの娯楽部門を民営化して、民間放送と同じスポンサー提供かあるいは有料放送としてスクランブル化するのが望ましいという案です。受信料は劇的に安くなることは必至であり、月額1225円の地上波受信料が500円以下になることは確実視されています。
個人的にはこの分割民営化案には大賛成なのですが、これにはまた強力な反対勢力が存在しているのです。それは既存の大手民間放送局(以下民放)をはじめとした民間放送媒体企業です。NHKが娯楽部門を民営化するなら、民放にとっては強力なライバル企業が出現することになるためです。
ただでさえ、21年の広告費でネットが「テレビ・新聞」が上回る(電通調べ)など広告媒体としてのテレビ一強の時代が終わりを告げ、スポンサー確保に四苦八苦している現状で、巨大な内部留保を持つNHK娯楽部門が民間参入するのは大反対であるわけなのです。
(関連記事:2021年のネット広告費2.7兆円、初の「テレビ・新聞」超え 電通調査)
政治家もNHK改革に及び腰
そもそもNHKがこれまで何度かの行政改革や事業仕分けなどの変革期に国の外郭団体の組織見直しをことごとくかわしてこられたのには、こういった同業の「援軍」がいたおかげでもあるのです。民放各局はNHKの民営化反対を高らかに叫ぶというよりは、報道機関として民営化問題を積極的には取り上げないことで世論を盛り上げない、という戦略をとってきました。
政治家のスタンスも基本は似たようなもので、やはり民間メディアが民営化反対である以上、彼らを敵に回すことになるような言動は避けたいという保身から、あえて火中に栗を拾うような者は出てこなかったというのが過去の流れなのです。
中でも強烈に記憶に残っているのは、NHKの民営化議論が最大に盛り上がった小泉純一郎政権下の2005年の出来事でした。この折には、NHK職員の不正問題やセクハラ問題、さらにはやらせ報道が立て続けに発覚したことで「NHKの経営体制見直しを検討すべし」との過去にない世論の盛り上がりがありました。
郵政民営化論を持論とする小泉首相の政権運営は「聖域なき構造改革=小泉改革」の真っただ中にあり、NHK問題も複数の有識者会議で議論がなされ、軒並み「公共放送見直しすべし」との結論が出されてもいたのです。
メディアを味方に 印象操作に長けた“小泉劇場”
ところが、公共放送見直し機運が現実のものになろうかと思われた矢先、小泉首相は「NHKの民営化はしないという閣議決定(01年の「特殊法人等整理合理化計画」でのNHKは特殊法人のまま維持するというもの)を踏まえた方がいい」と突如NHKの経営形態見直しはしないという趣旨の発言をしたのです。
突然の心変わりの裏に何があったのかは知る由もなく、NHKも民放もこの発言に胸をなでおろして無言を貫き、盛り上がりかけた見直し機運はあっけなく終息しました。メディアを味方に付けての印象操作が上手かった小泉政権だけに、民放との関係を重視した結論だったのではと思うところではあります。
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