NHKネット進出の欺瞞 稲葉新会長が取り組むべき小泉政権の“宿題”とは(3/3 ページ)
NHKの新たな会長に元日本銀行理事の稲葉延雄氏が就任することが決定した。リコー出身の経営者がNHKでいかなる改革の道筋をつけるのか、大いに注目されるところだ。
変化する公共放送の役割 ネット業務拡大は生き残り策
以後、公式の形で公共放送としてのNHKの存在意義を問う機会はほとんどないまま、17年の月日が流れました。公共放送としてNHKが発足したのは、戦後間もない1950年のこと。発足当時は民間放送局もまだ存在せず、戦後日本の復興を情報面から支えるという大役を担った公共放送としてのスタートでした。
それから70余年、民放の多局化、メディアの多様化、ネット媒体の隆盛に伴うライフスタイルの変化などを受けて、公共放送の役割も大きく変わって当然です。その抜本的な見直し議論をすっ飛ばして、自己の生き残り策としてネット業務の拡大を求める現状のNHKの姿勢には疑問符しか浮かばないのです。
仏→受信料廃止方針、英→受信料全面見直し
海外でも今年、公共放送のあり方についての議論は活発化しています。フランスではマクロン大統領の選挙公約として公共放送の受信料廃止方針が示され、国の税金で賄う方法に移行される見通しとなりました。NHKが開局以来、手本としてきた英BBCも、そのあり方を全面的に見直す白書が今春提出され、受信料の徴収を2年間凍結して組織運営の抜本的見直しに入ったと伝えられています。
必ずしも諸外国の動きに「右にならえ」ではないにしても、媒体の多様化、ネットメディアの台頭などによって公共放送見直しの必要性が高まっていることは世界共通であり、業務の見直しでこれをやり過ごそうなどという今のNHKのやり口は、世界的に見ても笑止千万ものではないでしょうか。
このような情勢を踏まえれば、今NHKに求められるものは前田前会長が押し進めてきた「業務・受信料・企業統治」の三位一体改革などで決して収まるものではなく、公共放送のあり方という抜本的なものでなくてはならないはずです。
稲葉新会長には時代の流れ、国際的な動向、受益者たる国民の要望をしっかりと受け止めた上で、経営形態にまで踏み込んだ改革に着手してほしいと思います。民放各局やネットビジネスで競合となる新聞各社も、あるいは政治家も、自己の利益や既得権益を守ることばかりを考えずに、公平な立場でこの問題をしっかりと取り上げるべきでしょう。国そして国民の財産でもある電波の活用をより国民の役に立てるという観点で、NHK改革の議論が盛り上がることを望みます。
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