トヨタは日本を諦めつつある 豊田章男社長のメッセージ:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/5 ページ)
日本の自動車業界は今後どうなるのか。タイトヨタの設立60周年記念式典、およびトヨタとCPグループとの提携に関する発表から、未来を展望する。
タイトヨタ60周年の意味
ここからは筆者の想像だが、その時おそらくヘッドオフィスは、米国とタイに分かれるだろう。米国の拠点は安定的な成長を続ける北米マーケットを軸に次世代マーケットの期待が寄せらる中南米をにらみ、同じく中国経済崩壊後の成長基軸として期待されるASEANの拠点としてタイが選ばれる。そういう絵柄になるのではないか。
既に人口縮小に突入している日本で、事業を続ける意味を見出すとしたら、母国日本に対しての愛以外に合理的な理由はないのだが、その母国が「トヨタ出遅れ」「トヨタオワコン」の大合唱。税制では自動車に不合理な課税で、基幹産業としての自動車を守る意思がカケラも見て取れないようでは、鮑の片思いにしかならない。
ということで全体を見通す俯瞰(ふかん)的な構図が見えたところで、詳細の説明に入っていこう。
まずはタイトヨタの60周年の意味からだ。トヨタは現在のASEANが工業化を進めるはるか昔、1966年からタイで自動車生産を始めている。タイのモータリゼーションを育てたのはトヨタであり、それに対する思い入れは強い。マーケットが成長した今、トンビに油揚を攫(さら)われたくないという気持ちはあって当然だろう。
中国でものづくりに、明らかに見合わない巨大なカントリーリスクが明確化した今、世界のものづくり産業は、ASEANへの拠点移動を粛々と進め始めており、ASEAN経済のバブル化を引き起こし始めているのだ。
少し前まで、中国生産に保険をかけるという意味で「チャイナ・プラスワン」といわれて、ベトナムやミャンマー、タイやインドネシアへの製造拠点確保が進められてきたわけだが、もはやそれは保険という地位を脱して、ポスト中国の着地点と見られ始めている。トヨタはどうやらそれをタイに期待している。
もっとも強かなトヨタのことである。100%子会社のダイハツは既にマレーシアとインドネシアに橋頭堡(きょうとうほ)を築き終わっている。ASEAN戦略でリーダーシップを取る可能性がある拠点はほぼ押さえていると言ってもいい。
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