トヨタは日本を諦めつつある 豊田章男社長のメッセージ:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/5 ページ)
日本の自動車業界は今後どうなるのか。タイトヨタの設立60周年記念式典、およびトヨタとCPグループとの提携に関する発表から、未来を展望する。
CPグループとは何か
では、今回提携したCPグループとは何か? 端的に言えば、タイ最大のコングロマリットである。種子苗の販売からスタートして、畜産や通信などへと拡大したのみならず、流通の7割を占めるともいわれるタイ経済の巨人である。タイ国内にある1万2000店舗のセブン-イレブンはすべて直営。スーパーマーケットなどの流通をはじめ、それなりのホテルの食材供給なども全部このCPグループが掌握している。つまり、重工業を例外として、タイ経済の支配者と言っても過言ではない。
CPについてこれ以上詳細な説明をしても行数を食うばかりなので、それ以上の詳細はこちらのリンク先からご確認願いたい。なお、筆者のタイ経済についての知識は付け焼き刃なので参照リンクの中身の保証はできかねる。
さて、ではこのプロジェクトにもう1つ重要な因子は何かと言われれば、トヨタがいすゞ、日野、スズキ、ダイハツと合弁で立ち上げたCJPT(Commercial Japan Partnership)である。CJPTの当面の目標は、東京と福島を結ぶカーボンニュートラル物流プロジェクトの実現である。集荷と配送をDXで効率化して物流トラックの総走行距離を大幅に削減するとともに、物流を3つの階層に分けて最適な輸送手段を選ぶことでカーボンニュートラル社会の実現を目指すものだ。例えるなら幹と枝と葉だ。
幹となるのは、高速を利用した大型トラック物流であり、東京と福島に設けられたそれぞれのゲートウェイターミナル間を、いすゞと日野の大型の水素燃料電池トラックで結ぶ。枝となるのは、ゲートウェイターミナルとエリアターミナルを結ぶ中距離輸送。ターミナル間の距離と標高差などを考慮して、適性によって、いすゞ、日野、トヨタなどの燃料電池の2トントラックとBEVの2トントラックを選択して輸送を行う。葉の葉脈のような役割を果たすのは地域ターミナルから各店舗や家庭への小口輸送である。ここはスズキとダイハツが用意するBEVの軽トラで組み立てるという計画だ。東京-福島間がうまくいけば、例えば東京と愛知、愛知と広島という具合に、コピーして拡大していかれるはずである。
このシステムをタイに入れようとすれば、物流の7割を寡占しているCPの裁量で、すぐに全国規模に拡大が可能である。CPの総帥である謝国民(タニン・チャラワノン)氏が首を縦に振れば、明日からでも着手できる。豊田章男氏と謝国民総帥の3時間にも及ぶトップ会談の最後に謝国民氏は「私は、豊田さんの後ろを目を瞑(つむ)ってついて行きます。あなたは間違いがあればそれを正せる人だから」と言ったという。彼自身、次世代はBEVだと、会談のその時まで思っていた。だからなぜ水素なのかは、急に納得することができない。しかし、豊田氏の説明を聞いて、最後は人を信じたのである。
キモとなるのは、「すぐできること」というキーワードである。本連載でも過去に何度も書いてきているが、01年から19年までの20年間に日本の自動車産業は、CO2排出量を23%も削減してきた。それは軽自動車やコンパクトカーへのサイズダウン移行と、ハイブリッドの普及による明確な成果である。それを自工会会長会見で豊田章男社長が何度も発表しているにもかかわらず、メディアは報道しないし、政府も評価しない。
同じ期間に米国は+9%、ドイツは+3%とCO2排出量を増加させてきており、原発大国として意気軒昂なフランスですら削減幅はたった1%にすぎない。欧州で最も成果を挙げた英国でさえマイナス9%と、日本の半分にも達していない。いやBEVに舵(かじ)を切ったのは、最近で……と言うのも結構だが、結局19年に向けてさえグラフは無常にも上昇するケースこそあれ、英国以外では減じてはいないではないか。
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