トヨタのタイ戦略はどうなるか 日本政府の然るべき人たちに「伝えたい」:池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/5 ページ)
タイを軸に、ASEANのCO2削減に力を入れ始めたトヨタ。日本ではなく、なぜタイではCO2削減が可能なのか。トヨタのタイ戦略の行方は。
トヨタのタイ戦略はどこへつながるのか
さて、こうしてトータルでトヨタのタイ戦略を追ってきたわけだが、その先は一体どこへつながるのだろうか?
今回のケースを筆者の角度で見ると、トヨタはまずCPグループを押さえた。CPを押さえるとタイが動く、そしてCPの総帥である謝国民(タニン・チャラワノン)氏は、その名前からも明らかな様に華僑系である。ASEANには華僑が経済を牛耳っている国はたくさんある。シンガポールもマレーシアもインドネシアも程度の差こそあれそういう国だ。タイでの成功は華僑ネットワークを通じてASEAN各国に波及する可能性が高い。タイが変わればASEANが変わる。
旧来の日米欧の3局。これに中国を加えるか加えないかは今後の中国経済次第ではあるが、仮に4局として、ポスト中国の時代にこれにどうやらASEANが加わることになる。5局のうちの1つは大きい。
ここで水素が必須になれば、ASEANを市場として狙いたい全ての自動車メーカーは、水素のコマを持つしかなくなるわけだ。そしてそのコマを持ってしまえば、水素を否定する意味はなくなる。これは欧米の自動車メーカーにとって魅力的ではなくなった日本のマーケットでは成立しない話だ。世界の自動車メーカーのトレンドがタイを起点に変わるかもしれない話のこれは始まりなのだ。
筆者はちょっとゲームのリバーシを思い浮かべた。CPはリバーシ盤のすみっこだ。角を取ってしまえば、ゲームは圧倒的に有利に進められる。つまりすみっこを起点にして盤のすべてのコマをひっくり返す。もちろん、それはまだルートマップにすぎない。できるかできないかは誰にも分からないが、一応うまくいけばそうなるという仮説はたったことになる。
実現するかどうかはともかく、これだけの大きな絵図が引けた意味は大きい。そういう話なのだ。さて、筆者としてはかなり一生懸命見てきたものを書き記したつもりではあるが、果たして日本政府の然るべき人々にこれが伝わるだろうか? もちろん筆者が書いたものでなくても良い。他の書き手や新聞記者たちが書いたものからでも良い。タイで何が起きているか、そしてトヨタがどう考えているか。それがちゃんと伝わるかどうかが日本の未来を決める可能性は高い。あとで振り返った時、23年がターニングポイントだったねぇということにならなければ良いのだが。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミュニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う他、YouTubeチャンネル「全部クルマのハナシ」を運営。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答も行っている。
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