なぜ東京オートサロンで「AE86」が登場したのか 忘れてはいけない“大事な議論”:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/5 ページ)
東京オートサロンに「AE86」で知られる人気の国産旧車を出展したトヨタ自動車。その場で豊田章男社長から語られたのは……。
問題は規制のタイミング
しかし、そこで問題となるのは規制のタイミングである。世の中では2050年にカーボンニュートラルを達成するには、“ちょっと頑張れば何とかなる”といった形で伝えられているが、そんなに簡単な話ではない。
そもそもクルマは耐用年数が長い商品である。乗用車ですら平均13年(国内)といわれている。つまり平均値で見ても37年には、CO2を排出するシステムが廃絶されていなければならないことになる。
もっと言えば、「カーボンニュートラルを達成する」ことが目標であるなら、平均で見ても仕方がない。偏差にもよるが、多少乱暴に平均が中央値だとみなすならば、その時点で半数がまだカーボンニュートラル化できないということになる。堅めに見れば7年後の30年くらいにはゼロエミッションに移行しておかないと難しい。
そんなことはいくら何でも無理だ。7年後に購入できる新車はBEVかFCVに限る規制を作る。最廉価な軽で250万円、登録車なら400万円。以後BEVまたはFCV以外の保有車の走行を段階を追って禁じていく。禁じられた人はクルマの所有をあきらめるか、前述の価格のクルマを買うしかない。それができて初めて50年のカーボンニュートラル化達成ということになる。
しかもこれが耐用年数の長い商用車だとどうなるか? こちらは20年は平気で使われる。場合によっては30年だ。こうなると、今すぐ対応してももう間に合わない。手遅れのタイミングに入っている。
左の図を見て分かる通り、年間8000万台新車が売れても、保有の15億台が全部入れ替わるには途方も無い時間がかかる。右図を見ると仮に35年に新車がすべてEV化されても、50年の全保有台数には大きな変化は与えられない
だから今さら、商用車の新車だけに手を打ってもそれだけでは足りない。乗用車は少しマシとはいえ、現実的に考えれば、既に路上を走っている保有のクルマについてのカーボンニュートラルを考えなければ、どんどん状況が悪化するばかりである。
関連記事
- トヨタは日本を諦めつつある 豊田章男社長のメッセージ
日本の自動車業界は今後どうなるのか。タイトヨタの設立60周年記念式典、およびトヨタとCPグループとの提携に関する発表から、未来を展望する。 - なぜSUVは売れているのか 「しばらく人気が続く」これだけの理由
街中でSUVをよく見かけるようになった。各社からさまざまなクルマが登場しているが、なぜ人気を集めているのだろうか。EV全盛時代になっても、SUV人気は続くのだろうか。 - なぜプリウスは“大変身”したのか トヨタが狙う世界市場での逆転策
トヨタが新型プリウスを発表した。発売はまだ先なので、車両の詳細なスペックなどは分からないものの、その変貌ぶりが話題になっている。それにしても、なぜトヨタはこのタイミングで発表したのか。背景にあるのは……。 - マツダCX-60は3.3Lもあるのに、なぜ驚異の燃費を叩き出すのか
マツダCX-60の販売状況が、なかなか好調のようだ。人気が高いのはディーゼルのマイルドハイブリッドと純ディーゼルで、どちらも3.3Lの直列6気筒エンジンを搭載している。それにしても、3.3Lもあるのに、なぜ燃費がよいのだろうか。 - なぜ「時速5キロの乗り物」をつくったのか 動かしてみて、分かってきたこと
時速5キロで走行する乗り物「iino(イイノ)」をご存じだろうか。関西電力100%子会社の「ゲキダンイイノ」が開発したところ、全国各地を「のろのろ」と動いているのだ。2月、神戸市の三宮で実証実験を行ったところ、どんなことが分かってきたのだろうか。 - なぜ「プリウス」はボコボコに叩かれるのか 「暴走老人」のアイコンになる日
またしても、「暴走老人」による犠牲者が出てしまった。二度とこのような悲劇が起きないことを願うばかりだが、筆者の窪田氏は違うことに注目している。「プリウスバッシング」だ。どういう意味かというと……。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.