今、自治体に「消防・防災DX」が強く求められている──そのワケは?(2/4 ページ)
これまでの政府による防災対策は、実際に起こった大災害後にバージョンアップを繰り返してきた。今求められている「防災4.0」はこれまでのそうした対策とは少し経路が異なるものだ。防災4.0とはどんなもので、なぜ必要なのか。
なぜ今「消防・防災DX」なのか?
消防・防災DXの早期実現が求められる背景には、いくつかの要因があります。
その一つが、自治体職員の人手不足です。地方公共団体の総職員数は、ピーク時の1994年から2020年までに約16%(52万人)減少しています。その反面、職員の業務範囲は増大し、頻発する自然災害への対応、超高齢化による福祉・医療対策などで年々負荷が増しています。現場実務に根強く残る紙文化、手作業、対面業務による負担も挙げられるでしょう。
このため総務省では21年11月、政府と歩調を合わせて「総務省デジタル田園都市国家構想推進本部」を設置。地域課題を解決する施策の1つに「デジタル化による消防・防災の高度化」を掲げましたが、課題は山積しているのが実情です。
例えば、消防行政は自治体行政にひもづくため、消防・防災に関わるシステムや設備についても、自治体ごとに個別に整備されており、横の連携が図りにくい構造となっています。有事の際、迅速・的確な意思決定や判断を行うためには自治体同士、行政機関同士の情報連携が不可欠であり、システムの標準化が大きな課題です。
また、DXの前提となる通信インフラの整備に後れを取る地域もある中、デジタル技術を使った業務に必要なリテラシーの不足、セキュリティに対する漠とした不安、堅牢な防災システムを築くのに掛かる膨大なコスト、めったにない有事への備えに投資することへの抵抗感など、さまざまな足かせに阻まれているのが現実といえます。
課題解決に向けて、動き出す「消防・防災DX」の黎明期
もちろん、そうした中でも進展は見られます。国が主導する消防分野の取り組みでいえば、(1)市民サービスの向上、(2)業務の迅速化・効率化、(3)職員の負担軽減──といった成果に向け、取り組みが進んでいます。
(1)市民サービスの向上については、消防計画の届け出など火災予防に関する各種手続きの電子申請化や、危険物取扱者保安講習など研修機会のオンライン化に取り組んでいます。(2)業務の迅速化・効率化では、マイナンバーカードを活用した医療機関との情報連携、救急業務の迅速化を実施。(3)職員の負担軽減の例としては、これまで時間を要していた災害発生時における被害情報の収集・集計と被災地から国への伝達を自動化するシステムの開発、などが挙げられます。
一方、自治体レベルの取り組みでは、AIやドローン、IoT、地図データ、SNS、衛星通信といった技術の組み合わせによる防災の取り組みが顕著です。
例えば、ドローンを使った被災状況の調査や物資輸送、監視カメラやセンサーなどが収集した情報と地図データを結び付ける地理情報(GIS)関連システム、SNS上の被害情報と公的サービスを連動させる仕組みなど、さまざまな取り組みが見られます。自治体ごとに分断された情報を連携させる試みとしては、実証段階ながらクラウド活用にも期待がかかります。
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