東急は上げて、北総は下げて、京急は上げて下げて 鉄道会社の運賃には“意味”がある:やはり、仕方がないのか(3/5 ページ)
値上げに踏み切る鉄道事業者も増えているが、物価上昇だけが理由ではない。各事業者の狙いとは。
高すぎる運賃の値下げ
一方、高すぎる運賃を値下げした事業者もある。北総鉄道だ。同社は22年10月1日、運賃値下げを実施した。子育て世代への配慮や、若い世代の千葉ニュータウンへの入居者を増やすために、通学定期運賃を大幅に値下げした。
一例を挙げると、京成高砂〜印西牧の原間の通学定期運賃を、1カ月1万4990円から4990円に、6カ月を8万950円から2万6950円とし、家計への負担を減らすことにした。初乗り運賃も203円から188円とし、北総線内の移動を促進するようにした。中距離帯を重点的に値下げし、沿線全体の活性化を目指す方針だ。通勤定期も値下げする。
高過ぎる定期券が雇用者側の通勤手当に跳ね返ることもあり、企業側からは「北総線利用者を採用したくない」という声もあったといわれている。
北総鉄道では、累積損失解消を機に、ポストコロナにおける輸送動向や沿線の将来を考え、利用者の声や沿線自治体のまちづくりも勘案。利便性を向上させて事業基盤の維持、向上のために値下げを行った。
いまいち発展の進まない千葉ニュータウンの開発促進や、運賃が高すぎることで敬遠される自社路線の利用促進などを目的にし、会社の経営状況を見つつ今後のことを考えて運賃を値下げしたといえる。
もちろん、現在は物価が急激に上昇し、鉄道の運行に必要な動力費も高騰しているものの、利用促進のために値下げをし、自社の沿線価値を向上させようとする経営判断は一理ある。
東急電鉄が路線の価値を下げないために値上げし、北総鉄道が沿線価値向上のために値下げをするというのは、相反するように見えて共通した価値観がベースになっている。
さらにこの春、興味深い定期券を発行する事業者も現れた。一律の値上げや値下げではないその施策は、波紋を広げている。
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