【4月施行】60時間超の時間外労働、割増賃金引き上げ 自社は該当する中小企業か?:令和5年の法改正トリセツ(2/3 ページ)
2023年4月から月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が大企業・中小企業問わず一律50%以上になります。自社は当てはまるのでしょうか? そのほかの要件なども見ていきましょう。
改正の狙いは「残業時間の削減」
働き方改革の中心に据えられている残業時間の削減は、過労死や精神疾患などの問題を引き起こす長時間労働の是正を目的としています。しかしパートタイマーなど短時間労働者の占める割合が増えたことにより、年間の平均労働時間こそ減っているものの、依然として諸外国に比べ長時間労働者が多い傾向があります。
厚生労働省の「令和4年版 過労死等防止対策白書」によると、週労働時間が49時間以上の日本人労働者の割合は15.1%(男性21.7%、女性6.9%)でした。この数字は先進国の中で韓国の次に多く、男性では5人に1人が超えているという結果となっています。
なぜ残業時間が減らないのでしょうか? その要因として、日本はEU諸国に比べて残業時間に対する割増賃金が低いことが指摘されています。EU諸国では時間外労働の割増賃金率が50%に設定されているため、残業が経営利益を圧迫します。その結果、できるだけ従業員に残業をさせないマネジメント力が管理職に求められるのです。
一方、日本では25%とそれほど高くありません。社員を増やすより、残業させたほうが経営的には安く上がります。時間外労働が60時間を超えた場合の割増賃金率が欧州諸国並みになれば、長時間労働を減らす方向に使用者側が努力するであろうという思惑から導入された制度です。
では、今回の改正で企業の負担はどれくらい増えるのか算出してみましょう。時給換算で1500円の社員が70時間残業したと仮定します。すると、1カ月あたりの残業代は、( (1500×1.25)×60)+((1500×1.5)×10)−(1500×1.25×70)=3750円アップします。
一人でしたら影響は少ないでしょうが、該当者が3人以上いれば、1万円を超えるので無視できなくなります。社会保険料の等級が上がった場合など他の要因も考慮すると、企業側の負担はさらに増えます。
関連記事
- レジ袋有料化の“二の舞”か プラ削減のために導入した「紙ストロー」が別の環境問題を引き起こすジレンマ
2022年は「プラスチック削減元年」と言っても過言ではないほどに紙ストローが普及した。環境に配慮した取り組みのようだが、レジ袋有料化同様に紙のほうが本当に環境負荷が小さいのか? という疑問が消費者の中で渦巻いているように感じる。紙ストロー移行は本当に意味があるのかというと…… - 定年退職後に嘱託社員として再雇用 賃金50%カットの妥当性は?
少子高齢化に伴い、高齢者活躍の土壌を整える必要性に迫られる日本。定年は60歳が一般的だが、65歳までの雇用維持、70歳までの就業機会の確保が努力義務となっている。定年退職後に嘱託社員として復帰した社員への賃金設定はいくらが妥当なのか? 社会保険労務士が解説。 - 「部下に退職代行を使われた」 無理やり本人を出勤させることはできるのか?
退職の申し出をする際に退職代行サービスを利用する人が増えてきたという意見を耳にする。退職代行会社から連絡が来ても本人を出勤させることはできる? 引き継ぎはどうすべき? などの疑問を社労士が解説。 - 「心理的安全性」が高い大企業で、若手の早期離職が加速する皮肉 足りないのは何?
昨今の日本の若手のキャリア形成にはある大きな謎がある。若手の労働時間や年次有給休暇の取得率などが明らかに好転している一方で、若手の離職率が下がっていないことだ。「心理的安全性が高く働きやすい」大企業を退職する若手が増えるのはなぜか? - 「もはや学生が憧れる企業ではない」 NTT東日本の危機感が生んだ”実務型インターン”
NTT東日本は採用に対して「学生の憧れの企業から年々離れていっている」という危機感を抱いていた。そこで新卒採用に関わる重要な要素であるインターンの変革に乗り出した。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.