インフレ手当を「一時的なブーム」で終わらせる、日本の4つの悪習:賃上げにつながるのか?(1/2 ページ)
物価上昇を受け、企業がインフレ手当を支給したとする報道が増えています。賃上げを実施する企業も出ている中、あくまで一時金であるインフレ手当を出すことで、賃上げのストッパーとなってしまう恐れはないのでしょうか?
物価上昇を受け、企業がインフレ手当を支給したとする報道が増えています。帝国データバンクが2022年11月に実施した調査では、既に支給済みの企業は6.6%。支給を予定している5.7%、検討中の14.1%の企業と合わせると、約4分の1の企業に意向があることが分かります。調査から4カ月あまりが経った今、実行に移した企業はより増えていることでしょう。
「良い企業でうらやましいなあ。うちなんて……」と嘆く会社員の方も多いかもしれませんが、インフレ手当は長期的に見ても本当に従業員に優しい取り組みなのでしょうか。賃上げを実施する企業も出ている中、あくまで一時金であるインフレ手当を出すことで、賃上げのストッパーとなってしまう恐れはないのでしょうか?
今回は、インフレ手当と賃上げの関係について整理します。
手当の多くは、インフレ率を100%カバーしていない
早速ですが、図1は厚生労働省が発表する「現金給与総額」(毎月勤労統計)の対前年同月比増加率を見たものです。
物価上昇が顕著になった2022年5月以降、増加幅が拡大しています。現金給与総額は全ての賃金であり、所定内給与、所定外給与、特別に支払われた給与の合計額です。全てが特別に支払われた給与ではありませんが、現金給与総額の増加のうちの幾分かは、インフレ手当を支給する動きの影響も受けているはずです。
企業が支給するインフレ手当については都度、報道されていますが、中でも最高クラスの金額はオリコンとノジマです。年間で12万円あり、さらに全社員一律です。
厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」によれば、日本人の1カ月の所定内給与の平均は30万7400円(21年)。一月当たり1万円のインフレ手当額は、これの3.3%に相当し、物価上昇率を十分カバーする金額です。
詳しくは表1に記載しますが、他の多くの企業のインフレ手当は月例給与ではなく一時金に過ぎず、必ずしも物価上昇率をカバーするものばかりではありません(ただし十分に温情的な措置であることに変わりはありません)。
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