コミュ力、センス、アート思考……ビジネスパーソンを追い詰める「能力主義」の罠とは:生きづらさの正体(3/5 ページ)
書店を見渡すと「〇〇力」とタイトルに付く本の多さに驚かされる。社会人が学ぶべき「コミュニケーション力」「人間力」「リーダーシップ力」――。“能力本”であふれるほどの状況の中、異彩を放つ本が昨年末、全国の書店に並んだ。タイトルは『「能力」の生きづらさをほぐす』(どく社)。仕事ができないのは能力が低いから。センスがないのは自己研鑽が足りないから――。著者で組織開発コンサルタントの勅使川原真衣(てしがわら・まい)さんは、そんな個人の能力に責任を負わせる「能力主義」の広がりに疑問を投げかける。
「能力」ではなく「機能」を持ち寄るのが健全な組織
――著書では個人の「能力」ではなく「機能」に着目すべきだと繰り返し訴えています
勅使川原: 著書でも紹介している車の「機能」の例えですね。車はアクセルやブレーキ、方向指示器、ボディ、タイヤなど、さまざまな「機能」が組み合わさることで安全に走ることができます。
組織も車の「機能」と同じように考えられます。車のアクセルのように、リーダーシップを発揮する社員もいれば、ブレーキ役の社員も必要になる。ナビゲーションのように情報やデータ分析に強い社員や、タイヤのように議論を円滑に進める調和性の高い社員もいる。
全員を一元的な「能力」で序列化するのではなく、多様な「機能」を持ち寄って、チームとして走っていく姿こそ健全な組織と言えるのではないでしょうか。
――競争社会で「能力主義」はますます勢いを増しているように感じます
勅使川原: 「能力主義」が勝手に独り歩きしているわけではなく、私たちが能力主義をありがたがってしまっている側面があると思います。能力主義の魅惑、引力みたいなものに気付くことが大事だと思います。
能力主義のように「できる」「できない」の二項対立は分かりやすいですよね。私たちはどうしても分かりやすさに引かれてしまう側面があると思います。でも、それで私たちは幸せになれるのかというと、少し疑問です。能力主義から距離を置き、機能にフォーカスする方がいいのではないかと考える人が増えれば、能力主義の勢いは止められると思います。
――一方で、ビジネスには成果・評価が付きものです。ビジネスパーソンは生計を立てるために成果を出し、評価されなければなりません
勅使川原: やはり評価も「能力」の評価ではなく、「機能」の評価であるべきだと考えています。評価というと、その人の出来・不出来を指しているように思われがちですが、仕事に求められている「機能」をどれぐらい発揮できているかが評価されるべきではないでしょうか。
成果も同じです。求められている「機能」の組み合わせで、組織として目標を達成していれば、それは成果だと思います。評価も成果も個人に求めていることが問題なのではないでしょうか。
評価を個人に求めるのはもう限界が来ていると感じます。採用で適性検査を課し、個人の心まで深堀りすることに、果たしてどれほどの意味があるのか。その後の業務や周囲との組み合わせ、適切な配置をしてあげることこそが重要であって、どんな心の持ちようでもいいのです。うまくいく企業は、採用人数を増やすことができます。厳選する必要がなく、組み合わせが大事だと分かっているからです。
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