コミュ力、センス、アート思考……ビジネスパーソンを追い詰める「能力主義」の罠とは:生きづらさの正体(5/5 ページ)
書店を見渡すと「〇〇力」とタイトルに付く本の多さに驚かされる。社会人が学ぶべき「コミュニケーション力」「人間力」「リーダーシップ力」――。“能力本”であふれるほどの状況の中、異彩を放つ本が昨年末、全国の書店に並んだ。タイトルは『「能力」の生きづらさをほぐす』(どく社)。仕事ができないのは能力が低いから。センスがないのは自己研鑽が足りないから――。著者で組織開発コンサルタントの勅使川原真衣(てしがわら・まい)さんは、そんな個人の能力に責任を負わせる「能力主義」の広がりに疑問を投げかける。
職業人格を演じればいい
能力論がますます勢いづく世の中で、ビジネスパーソンは能力主義の罠に陥らないためにどうすればいいのか。勅使川原さんは「悩むべき矛先を間違えないで」と訴える。
「『走る車』の例をもう一度、思い浮かべてください。個人は、自分の能力が低いからつらいのではなく、組織という車がうまく走らないときがつらい。悩むべき矛先を自身の内面に向けてしまうと、しんどくなります。能力ではなく、周囲との関係性、相性が大事なのだと思って周りを見渡してほしい。うまくいかないなら、自分に合った仕事、活躍できる場所をほかに探せばいいのです」
それでも、ビジネスパーソンであれば、ここで活躍しなければ社内で発言権が得られない――というシーンもあるかもしれない。
「そんなときは、能力の問題ではないと知った上で、職業人格を演じればいい。いま緻密っぽくしていないと会社から評価されないと思うのであれば、緻密っぽく演じてやればいい。少しくらい上から目線でいいと思います。会社の求めに応じてやりましょうと。自分が傷ついて動けなくなるより、よほどましです。間違っても自身の人柄や人となりを変えようと努力する必要はありません」
増殖する能力主義から身を守るために、ビジネスパーソンがまずできることは、自身の内面に原因を求めようとしないこと。これが、能力論の広がりに待ったを掛けるファーストステップになりそうだ。
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