中小企業の「賃上げしない」宣言 “踏み切らない”のには2つのワケがあった:32%が「賃上げしない・できない」(2/3 ページ)
インフレによる物価高騰が激しい昨今、大企業を中心に賃上げに踏み切るニュースが増えました。一方、中小企業は32%が賃上げは「実施しない・できない」と回答しています。「賃上げしない宣言」の裏にある2つの理由を解説します。
評価制度自体がない中小企業もある
大企業に勤務している人にとっては存在して当たり前かもしれませんが、評価制度が存在しない中小企業も意外と少なくありません。「中小企業白書2022」によると、人事評価制度がある企業の割合は、5〜20人規模で35.0%、21〜50人規模で57.2%、51〜100人規模では72.5%、101人以上の規模で87.2%という数字でした。100人を超える企業でも、1割強は評価制度が存在しないのです。
では、評価制度のない企業はどうやって昇給額を決めるのでしょうか? 社長の意向に左右されるケースが少なくありません。筆者も中小企業に評価制度の導入を提案するのですが、あまり反応が良いとはいえません。「うちの会社の規模だったら私が全員の状況を見られるからいいかな」という答えが返ってくるケースもあります。
社長が昇給額を決める会社の場合、社員全員が一気に昇給することもあれば、いつまでも昇給しないこともあり得てしまいます。一方、明文化された昇給制度がある会社は多少業績や景気が悪かったりしても、いきなり全員の昇給を見送るということにはならないでしょう。社長の一存で決まるのか、明文化された制度があるのかは給与の変動に大きく影響してくると考えられます。
大手と中小の課長職で開く格差
ここまで中小企業は賃金が上がりにくいと話してきましたが、資金繰りが苦しいとしても従業員を確保するために少しでも賃金を上げようと努力している経営者は少なくありません。
ただし、その中でも元からいる社員、それもある程度の経験を積んだ40歳以降のベテラン社員は後回しにされている印象があります。筆者の経験からすると、中小企業の課長職は年収500万円台の方が多かったです。その一方で一部上場企業の課長の年収は800万円台(労政時報2022年度調査)に達しているので大きな差があります。
大企業と中小企業とでは元から賃金格差はあるものの、その中でも課長職の賃金格差は特に大きいです。企業の規模が違えども、課長職というのは企業の柱です。責任と実務の負荷が最も重い職位でしょう。
筆者は会社員および社会保険労務士として一部上場企業から中小企業までさまざまな規模の課長職と仕事をしてきた経験がありますが、仕事ができるかどうかは企業規模に関係がなく人によるという印象が強いです。なんなら中小企業の課長の方がプレイングマネジャーとして働いている人が多いため、大企業の課長よりも実務に精通している人もいました。
資本主義の原理でいえば、優秀な人材を確保するため、中小企業といえども大企業に匹敵する給料を支給するのがあるべき姿なのですが、現実は異なります。
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