5年で1兆円の投資がムダに? リスキリングを生かすため、企業に欠かせない「業務デザイン力」とは:働き方の見取り図(4/4 ページ)
政府が5年で1兆円を投資すると発表したこともあってか、毎日のように目にするリスキリングという言葉。新しい技術がどんどん生み出される中、学び直しをビジネスシーンでうまく機能させるためには何が必要なのか。
同様に、せっかくリスキリングでAIに関する技能や知識を習得したとしても、職場の中でAIを使った業務改善やサービスの提供、ビジネスモデルの転換などが進められない限り、やはり宝の持ち腐れになります。どれだけ「リスキリングが重要だ!」とお金をかけて推進したとしても、学んだ技能を使う場がなければ意味がないのです。
企業に求められる“業務デザイン力”
一方で、必ずしも新しい部署や職名を用意する必要があるわけではありません。例えば、データマイニングを習得した社員のためにデジタル○○部という部署を作ったり、データサイエンティストという職名を新たに設けたりしなくても、既存のマーケティング部門でデータマイニングの技能や知識を生かした販促施策を打ち出したり、顧客を囲い込む戦略を練るといった取り組みを行えば、リスキリングした技能を生かすことができます。
つまり、新たに習得した技能や知識を生かせる業務を職場の中に設置して初めて、リスキリングはうまく機能するということです。逆に、もし職場に受け皿となる業務を用意できないとしたら、残念ながら習得した技能がビジネスシーンで生かされることはありません。
時代の急激な変化を考えればリスキリングは間違いなく必要であり、かつその技能を職場で生かせなければ会社の競争力は低下していくことになります。リスキリングをうまく機能させるために職場に求められるのは、習得した技能や知識を既存のビジネスと融合させたりビジネスモデルの転換を図ったりする中で、新たに業務を設計し直す“業務デザイン力”なのです。
著者プロフィール:川上敬太郎(かわかみ・けいたろう)
ワークスタイル研究家。1973年三重県津市出身。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等の役員・管理職、調査機関『しゅふJOB総合研究所』所長、厚生労働省委託事業検討会委員等を務める。雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する“働く主婦・主夫層”の声のべ4万人以上を調査したレポートは200本を超える。NHK「あさイチ」他メディア出演多数。
現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構株式会社 非常勤監査役、JCAST会社ウォッチ解説者の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。
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