5年で1兆円の投資がムダに? リスキリングを生かすため、企業に欠かせない「業務デザイン力」とは:働き方の見取り図(3/4 ページ)
政府が5年で1兆円を投資すると発表したこともあってか、毎日のように目にするリスキリングという言葉。新しい技術がどんどん生み出される中、学び直しをビジネスシーンでうまく機能させるためには何が必要なのか。
いま求められているリスキリングの背景にあるのは、DXやGX(Green Transformation:クリーンエネルギーへの転換)の推進、AIの活用など、社会や市場構造の再編に伴う変化です。これらは、いままで行われてきた事業の価値観やビジネスモデルまでも変換させてしまう可能性があります。そこで必要とされる学び直しの中にも、EメールやWord・Excelのような新たなツールを使いこなすためのアップスキリングもあるかもしれませんが、むしろ想定されるのは、業務内容やプロセスが根本から変換されることによって新たに生まれる業務ポジションに就くためのリスキリングです。
例えばDXの推進も、業務内容やプロセスの根本的な変換に他なりません。ずっとアナログで行われてきた業務をオンライン化するわけですから、書類管理という業務は内容がデータ管理業務へと置き換わります。書類にパンチで穴をあけてパイプ式ファイルに綴じるというアナログ時代の業務プロセスは、書類をスキャニングしてデータ化しサーバー内に保管するといった業務プロセスへと変更されます。その際に必要とされる技能や知識、ノウハウはアナログで行われてきた業務とは別のものです。
テレワークの停滞が意味すること
ただ、そのような業務変換を起こすには、まず「DXを推進する」という業務ポジションを新たに作り出し、アナログ時代に終止符を打たなければなりません。しかしながら、日本の職場がDX推進に積極的に取り組んでいると言えるのかは疑問です。
日本生産性本部の「第12回 働く人の意識に関する調査」によると、2023年1月のテレワーク実施率は16.8%。コロナ禍で最初の緊急事態宣言が出された20年5月時点の実施率31.5%と比較するとほぼ半減しており、テレワークの推進が停滞しています。
テレワークを推進するには、職場から離れた場所でも遠隔で業務を遂行できる環境構築が欠かせません。「出社しなければ印鑑が押せない」といったアナログ環境から脱却し、インターネットやイントラネットなどを使ってオンライン上で業務を完結できるようにDXを進める必要があります。しかし、テレワーク実施率の伸び悩みを見る限りは、DX自体があまり進んでいなさそうです。
ここに、いま時代から要請されているリスキリングがうまく機能するか否かを左右する重要な鍵があります。もし、リスキリングによってDXの推進に関する技能や知識を有した人材が多数輩出されたとしても、そもそも会社がDXを推進しようとしなければ、まず職場の中にDX推進業務自体が生まれませんし、DX推進による業務変換後の新たな業務ポジションも生まれません。それではリスキリングで得た技能も知識も生かされず、宝の持ち腐れで終わってしまいます。
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