「獺祭」蔵元が賃金と生産性をアップできたワケ 「賃上げブーム」との決定的な違いとは:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(4/4 ページ)
大企業で賃上げの報道が続いている。しかし、給与が上がるのは大手正社員のみ。物価が高騰しているにもかかわらず、大多数を占める中小企業の社員、特に中高年層の社員の給与は一向に増える見込みがありません。そんな中、経営層は、どんな意識を持って経営すべきなのか。ヒントとして獺祭の事例を紹介します。
桜井氏が、先代の急逝により社長になったのは1984年のこと。同社の売り上げは前年比15%減と落ち込み、危機的な状況でした。そこで桜井氏は会社の再生をかけて、さまざまな手を打つがうまくいかず、多額の借金を抱え込んだそうです。さらには、酒造りの責任者である杜氏(とうじ)が辞め、現場は大混乱します。
そこで桜井氏は自らが杜氏を兼任し、現場の社員蔵人とともに、「自分たちの理想とする酒造り」に挑み続けました。試行錯誤を繰り返しながらも、「自分たちの理想とする酒を作りたい」という思いを胸に、現場の社員たちと作り上げたのが「獺祭」であり、現場でともに戦った結果として、生産性が向上しました。
4代目社長、桜井一宏氏(博志会長の長男)も、現場の汗と涙の結晶である「獺祭」を、ふらりと入った居酒屋で飲み、魅了され、旭酒造に入社。現場で修行を積み、現在に至っています。
旭酒造は機械にできることは機械に任せる一方で、「人」にしかできないことは「人」に任せています。これまで私が見てきた「いい現場」も、全て同じように「人」の可能性を信じる現場でした。そして、人に投資するためにイノベーションを行っていたのです。
昨年同社が発表した「大幅な賃金アップ」は、いわば「あなたは我が社にとって大切な人」というトップからのメッセージであり、トップが現場とともに汗をかいてきたからこその産物です。
さて、「賃上げ! 賃上げ! 満額回答!」と騒ぎたている企業も、賃上げに踏み切れなかった企業も、トップには今一度考えていただきたい。
あなたは何のために、会社のトップなのか? あなたの会社は何のために存在しているのか? ということを。
河合薫氏のプロフィール:
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)『THE HOPE 50歳はどこへ消えた? 半径3メートルの幸福論』(プレジデント社)がある。
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