「獺祭」蔵元が賃金と生産性をアップできたワケ 「賃上げブーム」との決定的な違いとは:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(3/4 ページ)
大企業で賃上げの報道が続いている。しかし、給与が上がるのは大手正社員のみ。物価が高騰しているにもかかわらず、大多数を占める中小企業の社員、特に中高年層の社員の給与は一向に増える見込みがありません。そんな中、経営層は、どんな意識を持って経営すべきなのか。ヒントとして獺祭の事例を紹介します。
増える見込みのない、中高年の賃金
問題はそれだけではありません。
どんなに「賃金アップします!」と豪語する企業が増えようとも、40歳以上が上がる見込みは、ほぼありません。
なにせ、企業は20代の有能人材には“高い賃金”を払う気満々ですが、“その他”には目もくれません。20〜30代前半の賃金アップは「良い人材に我が社を選んでもらうため」のアピールになりますが、40歳以上の賃金の高さは“昭和”をイメージさせるネガティブ要因でしかないのです。
実際、経団連の「2021年人事・労務に関するトップ・マネジメント調査結果」で、賃上げを実施する企業に具体的な配分方法について聞いたところ、「若年層(30歳程度まで)へ重点配分」が18.7%だったのに対し、「ベテラン層(45歳程度以上)へ重点配分」はわずか2.2%です。
本来「働くの人の賃金を上げる」という経営判断を実現するには、「経営とは人の可能性を信じること」という当たり前と、人に投資し続けるにはイノベーションが必要不可欠という「経営の基本」の実践が不可欠です。なのに、それがない。
「いい人材を他の企業にとられないように〜」とか、「あそこもあげたからうちの会社も〜」といった、その場しのぎの賃上げは持続しないし、生産性も向上しません。ベテラン社員の「希望退職」を拡大させるだけです。
「獺祭」蔵元はなぜ、賃金と生産性を上げられたのか?
今からちょうど一年前に、日本酒「獺祭」蔵元の旭酒造が、大卒新入社員の初任給を、従来の月額21万円程度から30万円に引き上げると発表したニュースを覚えていますでしょうか(22年・23年製造部入社社員が対象)。
同社では22年に「5年で平均基本給を2倍」にすることを目標に掲げ、26年度には製造部の給与を、21年度比で2倍以上にすることを目指すプロジェクトをスタート。つまり、新卒社員の初任給アップだけではなく、既存社員の賃金も26年まで、段階的にベースアップを実施する計画なのです。
この「うらやましすぎる賃上げ」を実現させたのが、まさに「経営の基本」。旭酒造の前社長である桜井博志会長の「酒造りへの熱い思い」です。
関連記事
- 「課長まで」で終わる人と、出世する人の決定的な差
「『課長まで』で終わる人と、出世する人の決定的な差」とは何か? がむしゃらに働いても、出世できる人とそうでない人がいる。その明暗を分けるたった1つのポイントを、解説する。 - 月給35万円のはずが、17万円に……!? 繰り返される「求人詐欺」の真相
求人票に記された情報と職場実態が大きく異なる、「求人詐欺」が後を絶たない。洋菓子店マダムシンコの運営会社の元従業員は「月給35万円との約束で入社したが、実際は月給17万円だった」として労働審判の申し立てをしている。求職者を守る法律や求人メディアの掲載基準もあるにもかかわらず、なぜ求人詐欺はなくならないのか? ブラック企業アナリストの新田龍氏が実態に迫る。 - 「新人が育ってくれない」と悩む上司が知らない、Z世代の特徴とは
新しい価値観を持つ「Z世代」が新入社員として働き始めている。仕事への向き合い方をめぐって摩擦が起きる現場も少なくない。Z世代は何を考えているのか、それに対し、上司などの旧世代の社員はどのように対応すべきなのか。 - “スーツ姿の客”がネットカフェに急増 カギは「PCなし席」と「レシートの工夫」
コロナ禍で夜間の利用者が激減し、インターネットカフェ業界は大きな打撃を受けた。そんな中、トップシェアを誇る「快活CLUB」では、昼にテレワーク利用客を取り込むことに成功、売り上げを復調させた。そのカギは「PCなし席」と「レシートの工夫」にあるという。どういうことかというと……。 - アマゾンで増える「送料ぼったくり」被害 “誰だって気づくはず”の手口のウラ側
Amazonで“ぼったくり”な送料を設定する業者から、意図せずに商品を購入してしまう被害が後を絶たない。一見単純なシカケに、引っ掛かってしまう人が少なくないのはなぜなのか? “誰だって気づくはず”の手口のウラ側を探り、問題の本質に迫る。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.