「すしテロ」よりも注目すべき、外食チェーンの“本気の改革”:働き方の「今」を知る(3/4 ページ)
「安くて早くてうまい」日本の外食チェーン文化は、機械化・自動化などを用いた地道な企業努力で実現してきたものだ。昨今の、顧客による迷惑行為はこれらを根底から揺るがしかねない。この記事では、外食チェーンの努力を紹介することで、飲食業界を応援する。
「ワタミ」が進める、配膳ロボットとAIによる売上予測、発注自働化
「ミライザカ」「鳥メロ」など、国内外で400店を超える飲食店を運営する外食大手「ワタミ」も、コロナ禍を機械化とシステム化で乗り切ろうとしている。
同社は14年から労働環境改善に着手し、深夜営業の削減、不採算店舗の閉鎖と従業員の再配置、勤務間インターバル制度導入、会議効率化、賃金ベースアップ実現などを矢継ぎ早に実施。取り組みを地道に継続した結果、従業員の年間離職率(4月1日〜翌年3月末日までの常用雇用者数の離職率)は16年3月末が21.6%であったところ、19年3月末は8.9%へと低下するまでに至っている。
コロナ禍で居酒屋業態の売り上げが全国的に落ち込んでいた中、同社はメインブランドである居酒屋「和民」全店を順次「焼肉の和民」に切り替えるという大規模な業態転換を実施。今後はフランチャイズ展開も含め、5年で200店舗の出店を目指しているところだ。
同店は最初から「非接触型飲食店」として、料理配膳ロボットを導入し、配膳や下げ膳を自動化。肉や料理は回転寿司店でも見かける「特急レーン」に乗せて運ぶことで、従業員との接触率を減らしている。
ロボット導入店では、1台あたりアルバイトスタッフ換算で月100時間分程度、人件費として約10万円分の働きを賄えており、1店舗あたり月間人件費換算で約5%程度の生産性向上につながっている。
実際、とある導入店舗では従前ホールスタッフ10人で運営していたが、ロボットと特急レーン導入後は同規模の業務を5人で賄えているという。業態転換後の売り上げでみても、昨年対比で約150%の増収を実現できている。
また、AIを用いた売上予測、発注の自動化システムの導入も着手している。
AIが過去売上データを基に売上予測をして、それを基にそれぞれの営業日に何人のスタッフ必要かを算出、アルバイトスタッフのシフト表まで自動作成ができるというものだ。従前は店長が手計算し、1週間あたり2〜3時間を要していた作業が自動化したことで、店長は確認と承認作業をおこなうだけとなり、今後はわずか10分程度で済むようになる公算だ。しかも、店長が経験値から2週間前に予測をした場合と、AIが前日に予測した数字で比較すると、平均して7%、AIのほうの的中率が高いという。
さらに、従前は自店舗が掲載登録しているグルメサイトごとに個別に電話とFAX、メールで受付と席数管理が必要であった予約システムも、全て一元集約のうえで自動化を実現。店長の勤務時間のうち大きな割合を占めていた、スケジュール、発注、予約対応のための管理工数を減らせたことで、営業と接客に集中できる効果が出ている。
さまざまな取り組みの結果、コロナ禍で大打撃を受けていたワタミの全社業績も、本年度は黒字を確保できる見通しだ。
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