バッテリー地産地消時代、日米欧は中国に対抗できるのか:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/5 ページ)
世界中の自動車メーカーがバッテリーの地産地消化に向けて進んでいるが、現状EVシフトでもうかるのはバッテリーを生産する中国ばかりとの声もある。日米欧は中国に対抗できるのだろうか。
バッテリーの輸送リスク
もう1つの問題は、輸送しにくいことだ。大きくて重いバッテリーは当然輸送に向かない。コストと安全の両面に留意しながら運ぶことが難しい。
バッテリーは温度変化を苦手とする。バッテリーを船に大量に積んで、高温の赤道を越えたり、厳寒の高緯度地域を経由したりしたくない。巨大な貨物船に空調を入れるのはコスト的にも不可能に近い。当然ながら、船の中でクルマを走らせるわけにもいかないので、充放電は不可能という意味で、条件は完成車でも一緒だ。
火災のリスクの話もしなくてはならない。バッテリーが最も劣化しにくい状況は、フル充電や電欠を避けた半充電状態。内燃機関なら船積みの際、燃料タンクを空にできるが、バッテリーはその特性のために空にできない。何かあれば、エネルギーは一気に放出に至る。当然それは火災を呼ぶのだ。
余談だが、先日取材に行った日産系のバッテリーリサイクル事業者である「4Rエナジー(フォーアールエナジー)」では、中古バッテリーをモジュールごとの状態を把握するコンピュータ制御の巨大なシステムに繋いで、電圧と温度を計測し、最も安全な充電量に丁寧に調整してから保管していた。
「危惧の話ばかりするが、リアルな問題は起きているのか?」と問われれば、2022年の3月には、大西洋のアゾレス諸島沖で自動車運搬船が火災を起こして沈んだ。
原因は明確になっていないが、米国のビジネス&生活情報サイト『U.S. FrontLine』によれば、コンサルティング会社アンダーソン・エコノミック・グループが発表した報告書には「船は乗組員が下船した後も燃え続け、(電気自動車モデルに搭載されたリチウムイオン電池の)リチウム火災の疑いも認められることを考えると、ほぼ全ての車両が修復できない損傷を受けたと推測され、米国市場では販売できない。これらの車両は火災、煙、水による損害を受けただけでなく、海水に浸る恐れもある。恐らく可燃物はほとんど残っていないだろう」とある。この報告書の後、船は2週間燃え続けて最終的に沈没した。
まあ、こういうことを書くと「またEV否定論者が」とかみつかれるのだと思うが、とりあえずEVの話、というか「使用中のバッテリー」の話はしていない。要するにバッテリーは輸送に向かないと言いたいだけで、事実世界中の自動車メーカーは今バッテリーの地産地消化に向けて進んでいる。
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