バッテリー地産地消時代、日米欧は中国に対抗できるのか:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/5 ページ)
世界中の自動車メーカーがバッテリーの地産地消化に向けて進んでいるが、現状EVシフトでもうかるのはバッテリーを生産する中国ばかりとの声もある。日米欧は中国に対抗できるのだろうか。
「Buy American」への回帰
中国はかつてレアアースでもダンピングを繰り返して、世界各国のレアアース鉱山を閉鎖に追い込み、然るのちに戦略物資として輸出規制をかけて揺さぶった。通常の話し合いを飛び越えて、経済で圧力をかける癖がある。そういう国に重要物資を依存する状態に対して、西側諸国は今強い危機感を抱いている。過去20年間にわたって、世界中の企業は中国と取引することでもうけてきた。しかしことここに至って、もはや経済安全保障の問題を先送りにできなくなった。
22年8月、米国のバイデン政権はインフレ抑制法を成立させた。多方面に及ぶ法律だが、自動車に関係する部分を見ると、インフレ抑制をエクスキューズに、中国製バッテリーの締め出しを狙った法律であることが見て取れる。EVの補助金に米国および米国とFTAを締結した国からの主要原料調達を義務付けるなどのルールを策定した。つまりそれは「Buy American」への回帰である。
欧州はどうか? 欧州がなぜEVシフトに向かったかの見立てについては、過去に日経ビジネス電子版に書いた記事を参照していただきたい。
欧州はEVシフトを試みたが、市場の求める価格に適合できない。バッテリー価格がいまだに高いからだ。高いバッテリーを組み込んだ高価なEVを少ない利幅で売ることになり、ちっとももうからない。
EVシフトでもうかるのはバッテリーを生産する中国ばかり、という構造に遅まきながら気づいた欧州が持ち出したのがLCA(ライフサイクルアセスメント)である。LCAとは、原材料の採掘などから、車両の生産、運行、廃棄またはリサイクルまでの製品の生涯でのCO2排出量を評価する仕組みだ。このLCAでバッテリーを評価し、国境炭素税として多額の関税をかけることで中国製バッテリーを排除しようというわけだ。
欧州としては、99%が水力発電のノルウェーなどでバッテリーを生産すれば、クリーンなバッテリーが作れる。対して中国は石炭火力が多く、LCAでは厳しい結果になるのはほぼ確定である。
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