「にじさんじ」ANYCOLORが市場変更へ なぜ、多くの企業はプライム市場を目指すのか:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(3/3 ページ)
売り上げ絶好調のANYCOLORが、グロース市場からプライム市場への変更を申請した。拡大を続けるVTuberビジネスのリーディングカンパニーともいえる同社だが、今プライム市場に変更する理由は何なのか。
資金調達面でもメリットあり
プライム市場への変更を行い、紹介したようなメリットを享受できれば、資金調達も容易になる。グロース市場で大量の株式を発行し、第三者割当増資を行うと、需給の悪化や1株当たりの株価指標悪化を招くだけでなく、低い流動性から株式の下落がオーバーシュートするリスクがある。
しかし、プライム市場に変更すれば、多様な海外投資家を含めて調達先を選定でき、需給状況の悪化懸念も分厚い流動性でサポートされる。増資を行っても株価がそれほど下がらなければ、次回の増資も高い企業価値で実施できるため、企業にとっては市場へ新たに放出する株数を抑えることができ、資金調達コストの低下につながるというわけだ。
VTuberビジネスにとってターニングポイントに?
もちろん、プライム市場への区分変更は、冒頭で触れたコスト面だけでなく、多様な投資家に知られるというデメリットもある。多くの投資家に知ってもらうことはメリットにも感じるが、特にモノ言う株主に知られたりSNS上での口コミで過度に期待が高まったりすることで、企業は短期的な業績や株価への対応に追われることがあり、長期的な視点ではなく四半期単位での成果に固執してしまうようなリスクもある。
ただ、ANYCOLORが今後成長を続けていく、そしてVTuberビジネスがこれまで以上に広がっていく上で、プライム市場への変更は大きなポイントとなるだろう。わが国における新興企業の王道ストーリーとして、旧マザーズ市場に上場した銘柄が市場区分を行い、名の知られた企業になっていったケースは枚挙にいとまがない。例えば、ヤフー(現:Zホールディングス)やサイバーエージェントなどが思い浮かぶ。
2社はいずれも、ITバブルが崩壊した後に旧東証一部へ上場区分を変更している。ヤフーは03年、サイバーエージェントは04年に市場区分を変更したが、今日の事業展開に少なからず影響を与えているはずだ。
まとめると、今後ANYCOLORがグロース市場からプライム市場へ区分変更を行えば、企業の認知度がさらに向上し、投資家からの関心が高まることが予想される。また、プライム市場特有の資金調達の容易さや、信用力の向上は、事業拡大や新規事業への投資に生かされる可能性があるだろう。
ただし、市場区分変更が成功するかどうかは、今後の経営戦略や市場環境、競合状況など多くの要素に左右される。VTuber業界は急速に成長し、ホロライブプロダクションを運営するカバーの上場や、大手企業の参入など競争環境が激化している。その中で頭一つ抜けられるかどうか、今後に注目したい。
筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO
1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Twitterはこちら
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