「さようなら、またね」 八重洲ブックセンター本店の建物が“複雑”で面白い:水曜日に「へえ」な話(2/4 ページ)
東京駅の近くにある「八重洲ブックセンター本店」が閉店する。周辺エリアの再開発によるもので、いったん終了する形だ。本店の建物は「船」をイメージしているが、その歴史を取材すると、興味深い話がちらほら。どんな内容かというと……。
計画通りに話は進まなかった
意外に知られていないことかと思うが、八重洲ブックセンターの設立母体はゼネコンの鹿島建設である。東京駅前から赤坂に本社を移したことによって、八重洲の土地が空き地になった。その跡地を利用して、書店をオープンしたのだ。
「ゼネコンが書店に参入」と聞くと、違和感を覚える人も多いかもしれない。歴史を振り返るとちょっと長くなるので、割愛するが、当時の鹿島建設は文化や学術事業にチカラを入れていて、1963年に「鹿島出版会」という出版社を設立し、同年に「日本技術映画社」を立ち上げ、映画制作に携わっていた。出版、映画に続き、満を持して「書店」に参入したのだ。
オープン当初から「たくさんのお客が詰めかけた」「八重洲の人の流れを変えた」といった話を聞くと、順風満帆のように感じるかもしれないが、実は計画通りに話は進まなかった。建物は地下1階、地上8階建て。「立派なビルが完成した! 全9フロアーでじゃんじゃん売っていくぞー」といった意気込みがあったと思うが、本を並べたのは地下1階から地上4階までの5フロアーのみ。なぜか。書店組合の反対があったのだ。
「これまでになかった規模の書店ができるぞー」「大手のゼネコンが参入してくるぞー」といった話を聞きつけた近隣の書店は、どのように感じたのか。「不安」である。組合と同社は協議を重ねた結果、売り場を半分ほどにすることで決着したのである。面積だけでなく、書籍の種類にも制限がかかった。雑誌、文庫、コミックを並べることができなかったのだ。
大手出版社が扱う文庫本はNGで、学術的なものはOK。雑誌も人気週刊誌はNGで、専門的なものであればOK。漫画は基本的にNG。“飛車角抜き”のような形で営業を始めたものの、この規制は少しずつ緩和されていき、扱える種類も増えていく。そうなると本を並べるスペースを確保しなければいけないので、1986年には5フロアから6フロアに、95年には8フロアに、そして2005年にようやく全9フロアで営業できるようになった(いまの形)。
こうした背景があったので、実はこのビルはやや“使い勝手”が悪い。例えば、エスカレーター。入り口の近くにエスカレーターがあるものの、それを使って移動できるのは4階まで。エレベーターはどうか。1階から利用できるものの、2階と3階には止まらない。エスカレーターが5階以上はなく、エレベーターが2階と3階に止まらないのは、書店組合の反対が影響しているのだ。
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