スピッツの“チケット料金変動制” 「土曜1200円増」でもSNSで共感の声が集まるワケ:平日安くで分散化(2/4 ページ)
音楽バンドの「スピッツ」は2023年2月1日、同年6月から始まる全国ツアーのチケット料金に変動制を採用すると発表しました。平日の集客を増やしたいという狙いには、SNS上で多くの共感や賛成の声が上がりました。その戦略を、プライシングスタジオ社長の高橋嘉尋が解説します。
複数の値付けで得られる「収益最大化」以外の効果
今回の価格設定では、一つの対象に複数の値付けをする「一物多価」の手法がとられています。一物多価のプライシングでは、需要や条件に応じて価格を複数設定します。それによって「安くないと買わない層」と「高くても買う層」のいずれにもアプローチでき、単一価格では見込めなかった収益を取り込めるため収益最大化の効果が期待できます。
一物多価の最たる例がダイナミックプライシングです。絶え間なく変化する需要に応じて高頻度で価格を変動させることで、利益を最大化する価格設定を可能にしています。
昨今、ニュースでも耳にする機会の多い変動価格制やダイナミックプライシングですが、決して収益最大化だけを目指す「企業の値上げ手法」とは限りません。顧客満足度の向上につながる、ある効果も兼ね備えています。それが「混雑緩和」です。
消費者心理として、同じ価値の商品やサービスの価格が変動するのであれば、できるだけ安いタイミングで利用したいと思うものです。つまり需要が大きい時に値上げを、需要が小さい時に値下げをすれば、混雑する時間帯の客を空いているタイミングに誘導できます。
消費者からすれば、需要が小さいタイミングを選ぶことで価格的なメリットを享受できます。収益最大化や値上げの文脈で取り上げられやすいダイナミックプライシングですが、需要と供給がマッチすることは顧客にとっても大きなメリットをもたらしうるのです。
スピッツのチケット料金については、まさに需要の大きい土曜日や日・祝日の価格を上げることで混雑を抑制し、反対に需要が小さかった平日を値下げし、観客の誘導を狙ったものです。
ただし今回のツアーでは、主要都市などを除いて多くの会場が1公演の開催であるため、実際には平日しか選択肢がないケースが多くなると考えられます。ただその場合も、平日の価格が安いことから、選択肢に入りづらかった平日公演への参加を検討する余地が生まれる可能性は大いにあるといえるでしょう。
副次的な効果として、興行側は平日の比較的安価なライブハウスを使用できるほか、ライブハウス側にとっても新たな需要が生まれることが予想されます。
一方で平日の公演に行くことが難しいファンにとっては不公平感を生んでしまう可能性もあります。より顧客満足度を高めるためには、例えば同じ会場での公演を数日実施する、もしくは曜日だけでなく座席など、他の変数での価格差をつけることも考えられるでしょう。
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