トヨタが奮闘する燃料電池は、再び脚光を浴びるのか:高根英幸 「クルマのミライ」(5/6 ページ)
トヨタのFCEV「MIRAI」の販売台数がいまひとつである。直近の販売台数を見ると、月に24台だ。このままでは「近未来のカーボンニュートラル」は絵に描いた餅で終わってしまいそうだが、業界ではどのような動きがあるのだろうか。取材して分かったことは……。
トヨタ、そして国内の他企業も積極的な姿勢に
トヨタは水素燃料電池の利用をクルマ以外にも広げるために、モジュールでの提供を始めている。すでにMIRAIで採用されている燃料電池モジュールは燃料電池バス「SORA」で複数搭載されているだけでなく、さまざまな用途で使われ始めている。今回の展示会では、さまざまなサイズの燃料電池モジュールを展示し、水素貯蔵モジュールも披露した。
またフランスの燃料電池ベンチャーがトヨタの燃料電池モジュールを用いた移動式の発電機を開発し、EVの充電ステーションや工場の発電設備などに使えるものとしてパネル展示していた。
総合重工業メーカーのIHIは、FCEVに欠かせない過給機を開発中のものも含めて展示していた。なぜFCEVに過給機が必要なのか、と思われる読者もいるだろう。燃料電池は酸素と水素を反応させて電気を取り出す関係上、空気(酸素)をたくさん送り込む必要がある。
そのため初代MIRAIではルーツブロアー、現行のMIRAIでは遊星ギアでモーターの回転を増幅した電動ターボ(遠心式過給機)を採用しているが、IHIは燃料電池スタックに空気を圧送するための電動ターボを展示していた。その中にはメルセデス・ベンツのGLCをベースとしたプラグインFCVに採用されたものもあった。
それは中央にモーターを組み込み、両側に遠心式コンプレッサーを備えたもので、これにより2段過給を実現していた。さらに同じ構造ながら燃料電池スタックに圧送した空気が排出された圧力を回収することで、約30%の駆動電力低減を果たすそうだ。
IHIが展示した次世代ETC(電動ターボチャージャー)。エンジン用は低回転域での過給を素早く行うためにモーターがタービンの回転を加速させるが、燃料電池用は空気を圧送するポンプとして機能。二段過給や背圧回収など、目的によって使い分けられる技術を展示した
計量器メーカーのタツノは、世界で2社しか存在しなかったほど製作が困難な水素ディスペンサーの内製化に挑戦し、見事に実現している。さらに今回のH2&FC EXPOではトラックへの重点を可能にする大容量のディスペンサーと、同時に2台への充てんを可能にした大型の充てん機を発表した。
川崎重工は液化水素運搬船を製作し、オーストラリアから褐炭由来の水素を液化して、16日間かけて運び、1度の温度上昇だけで運搬できた実績から、いよいよ液化水素の本格利用が始まろうとしている。ロケット燃料から始まって半世紀にも及ぶ液体水素の極低温技術が、今まさに身を結ぼうとしているのだ。
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