株価が急上昇! 最先端の米医療ビジネスは何がすごい?:石角友愛とめぐる、米国リテール最前線(3/3 ページ)
米国で、医療ビジネスに大きなビジネスモデルの変革の波が訪れている。この記事では、「通院・相談に勇気がいる分野」を主戦場に急成長したベンチャー企業に着目し、巨大な市場で勝ち抜くヒントを解説する。
サブスクリプションサービスへの進出
同社はまた、定期的な収益を得るためのサブスクリプションベースのモデルも提供しており、大きな収益源になっています。例えば、Webサイトには「シワやニキビなどの治療のためにパーソナルなクリームを提供する場合、毎月29ドルから」と記載されています。
このようなスキンケアやメンタルヘルス、セクシャルヘルス系の薬は定期購入することが多いため、サブスクリプションモデルとの親和性が高いともいえます。また、薬局に毎月足を運ぶ手間が省け、プライバシーも守られるため、時間的制約や心理的なハードルからも解放されます。
統一されたパッケージによるブランディング
もう一つ、himsの強みとして薬のパッケージングなどによるブランディングが挙げられます。
届く薬は同じジェネリックなものだとしても、統一されたスタイリッシュなパッケージに入っていることで、消費者のロイヤリティーが高くなります。
米国の薬は似たような容器に入っており、パッケージという形でマーケティングを実施する会社は多くないため、この点も他とは違う同社の強みであるといえるでしょう。
規模の大きい、プライマリーケア市場への参入
コロナ禍をきっかけに急成長した遠隔診療市場ですが、himsはこれを機により大きな市場であるプライマリーケア市場にも参入しています。
プライマリーケアとは「初期医療」の意味であり、米国では身体の不調があるとまず自分の主治医であるプライマリーケア医に相談します。 プライマリーケア医は、別名ゲートキーパー医とも呼ばれ、患者を初期診察した上で、入院や専門医への受診が必要かどうかを判断し、紹介状を発行する役割を果たします。
多くの場合、プライマリーケア医は民間医療保険会社により選定されるため、自宅や勤務先から遠くにいる場合も珍しくなく、このプライマリーケアシステム自体が米国での医療機関受診を妨げる1つのハードルとなっている場合があることも事実です。
しかし、himsを使用することで、患者は風邪やインフルエンザ、アレルギー、感染症、皮膚の問題など、30以上の一般的なプライマリーケア疾患について、米国の認可を受けた医療従事者から治療を受けられると同社のWebサイトには記載されています。さらに、同社のHersブランドでは、遠隔プライマリーケアサービスも提供。これは、ライセンスを持つ医療従事者がオンラインで患者の症状を評価し、適切な治療計画を提案するものです。
このように、創業当初より強みにしてきた垂直統合型のプラットフォームとサービスを中心により大きい市場であるプライマリーケアに参入したことで注目度が高まっています。風邪やインフルエンザという、より多くの人々が必要とする医療ケアが、便利なオンラインツールを通してアクセスできるようになるため、特にミレニアル世代を中心として広く受け入れられているようです。
セクシャルヘルスやメンタルヘルス、スキンケアなどニッチな市場でリピート顧客をつかみ、上場までつなげたhimsですが、そこで培ったパーソナライズされたプラットフォームの技術や遠隔診療を実現させる技術、薬のパッケージや物流のノウハウ、顧客との関係性を構築するマーケティング戦略などは、今後プライマリーケア市場でより積極的に事業を拡張する上でも役に立つアプローチであるといえるでしょう。
著者プロフィール:石角友愛(いしずみ・ともえ)
パロアルトインサイトCEO/AIビジネスデザイナー
2010年にハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。データサイエンティストのネットワークを構築し、日本企業に対して最新のAI戦略提案からAI開発まで一貫したAI支援を提供。AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授(AI企業戦略)及び東京大学工学部アドバイザリー・ボードをはじめとして、京都府アート&テクノロジー・ヴィレッジ事業クリエイターを務めるなど幅広く活動している。また、毎日新聞「石角友愛のシリコンバレー通信」、ITメディア「石角友愛とめぐる、米国リテール最前線」など大手メディアでの寄稿連載を多く持ち、最新のIT業界に関する情報を発信している。「報道ステーション」「NHKクローズアップ現代+」などTV出演も多数。
著書に『いまこそ知りたいDX戦略』『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『経験ゼロから始めるAI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)など多数。
パロアルトインサイトHP:www.paloaltoinsight.com
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com
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