万引きの被害総額は年間8000億円超 従業員の犯行も? 一定の被害は諦めるしかないのか:日本のリアル産業を救う“エッジAI最前線”(4/4 ページ)
昔も今も万引き行為は後を絶たず、年間の被害総額は約8089億円に上る。それ以外にも数多の不正行為があり、最近では回転寿司チェーン店を中心に顧客の迷惑動画が拡散される事象も問題に。店舗側の負担となっていた防犯対策のコスト構造を変え、攻めの投資につなげる可能性を探る。
プラットフォームを掛け合わせ、安心・安全な社会インフラに
長岡: こういったシステムを取り入れる企業が少しずつ増えており、今後は蓄積される特徴データや防犯ノウハウを、同じ問題を抱える企業間で共有できるセキュアなプラットフォームをつくることも想定しています。もちろん、これも個人のプライバシーを侵さないことが前提です。
中村: 例えば、不正行為の予兆行動や不正の生じるリスクが高い場所・条件などのデータを共有し、検知を早めたりAIの精度を継続に改善したりといったプラットフォームが考えられます。エッジで映像を処理し、匿名化された情報だけを扱うことで個人のプライバシー侵害のリスクを減らしつつ、データの共同利用を実現できると考えています。
長岡: その他にも、異なる技術が重なることで新しい発見が数多く生まれると思います。例えばある店舗では当社のシステムを3年間運用し、1000件ほどの万引きを検知しました。その店舗には150台以上のカメラがありましたが、ほとんどの万引きを検知したのはわずか3台のカメラだったのです。不正の手口にはそれほどの“傾向”があるため、異なる技術を組み合わせることで、その傾向の深掘りや新たな発見ができると考えています。
中村: 企業の裏側を支える防犯プラットフォームと、コストを抑えて高速でさまざまな処理を行うエッジAIプラットフォームが合わさったことにも意義を感じます。何より、異なるプラットフォームをつないだからこそ、今までにないマーケティングと防犯の両立を見据えたインフラ構想にたどり着いたのではないでしょうか。
今回の例に限らず、得意分野を持つパートナー同士が掛け合わさることで自分たちの強みを最大限生かした形で社会実装していけるのだと思います。
本記事から考えるエッジAIの活用ポイント
1店内告知に使用するディスプレイなどを使い、安全な不正抑止を可能にする
2高度な不正防止システムのコストを抑え、大規模展開できる
3マーケティングと防犯への投資を、1つの枠組みで考えられる
4やがて検知データを共有できれば、社会インフラになり得る
著者プロフィール
Idein(イデイン) CEO 中村 晃一
1984年生まれ、岩手県出身。東京大学大学院情報理工学系研究科コンピュータ科学専攻後期博士課程にて、スーパーコンピュータのための最適化コンパイラ技術を研究。AI/IoT技術を利用して物理世界をデータ化する事業にチャレンジしたいという思いから、大学を中退し2015年にIdeinを設立。18年には半導体大手の英ARM社から「ARM Innovator」に日本人(個人)として初めて選出された。プログラミング・ものづくりと数学や物理などの学問が好き。趣味でジャズピアノをひく。
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