中国の自動車産業は覇権を握るのか:池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/5 ページ)
なぜ中国の自動車メーカーの勢いは止まらないのか。中国や世界経済を取り巻く状況と合わせて見ていこう。
中国製BEVの勝負は
さて、中国製BEVの勝負はどのマーケットで争われるのだろうか。まず、地元「中国」が考えられる。共産党は当然民族系メーカーに有利なルールを今後も進めていくと考えられるので、ここはおそらく中国製BEVが優勢になる。
日本はおそらくさほど問題にはなるまい。元々輸入車のシェアはピークで10%という極めて特殊なマーケットであり、ドイツ車ですら、大して売れない。国がよっぽど変なかじ取りをしない限りは、日本車優勢はゆるがないだろう。
米国はどうか。この国はいまだに販売台数のトップ3を大型ピックアップトラックが占めるようなお国柄であり、極めてガラパゴスなマーケットである。米国車が世界で売れないのはそういうガラパゴス商品だからで、中国メーカーが米国の需要を徹底的に研究して、対米専用モデルでも出さない限り、マーケットを取ってもたかがしれている。そしてそういう米国メーカーの中核モデルにうっかり踏み込むと米国の逆鱗に触れる。リスクが高すぎるのだ。
一番問題なのは欧州である。欧州はそもそもバッテリー原材料の確保で明らかに遅れを取った。BEVを推進しようとすると、中国を頼るしかなくなる。言わずと知れたバッテリーの供給の話である。
しかも中国の自動車産業を育てたのは欧州、特にドイツなので、中国の規制はおおむね欧州の規制をたたき台にしており、中国国内規制を通ったものは、欧州の規制も通りやすい。欧州側からしてみれば、中国に商品をバカバカ売りつけるために共通化に持っていったのだが、自分でかけた橋で敵の進軍を効率化させる羽目になっている。
そして、これまで世界の工場であった中国から多くのものづくり産業が脱出した先であるASEANが最も熾烈(しれつ)になるだろう。平均値として豊かではなく、初期導入コストが勝負になりやすいASEANでは、中国車のコスパが最も戦果を挙げやすい。しかしながらASEANは長らく、日本が育ててきたマーケットでもあることから、ここでは激戦が繰り広げられると思われる。
さて、こうやって書き終わってみても、中国車の話は難しい。要するに中国の国内経済と、世界的な経済摩擦という大きな2要素で、どこへ進むか全く分からない。唯一言えるのは、どちらの要素も、基本的には厳しい方向へ進んでいる。西側の「民主主義+資本主義」と中国式「社会主義+資本主義」は、どうも相いれなかったらしい。それが何を引き起こすのか、じっくり注視していきたいと思う。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミュニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う他、YouTubeチャンネル「全部クルマのハナシ」を運営。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答も行っている。
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