中国の自動車産業は覇権を握るのか:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/5 ページ)
なぜ中国の自動車メーカーの勢いは止まらないのか。中国や世界経済を取り巻く状況と合わせて見ていこう。
中国経済の内部崩壊も進んでいる
一方で、中国経済そのものの内部崩壊が進みつつある。ご存じの通り、現在の中国は元々革命政権である。第2次国共内戦で、毛沢東が中華人民共和国を建国したときから、財源に苦労した。中央はともかく地方自治体や人民解放軍に十分な予算が割けない中、地方自治体にも軍にも自力救済を求めた。
その結果が、政治権力を元に事業を行うやり方だ。人民解放軍を例に挙げれば、時がたつにつれ国防科学技術分野での経済活動は増加していき、通信機器のほか、監視カメラ、半導体、人工知能などに広がった。国防に関係のある産業だけではなく、ホテルやレストランなど、民業にも数多く進出しているのだが、これら企業の中で、米国のエンティティリスト入りし、稼げなくなっている企業が増えてきている。
地方自治体はその多くが、土地の使用権の販売を財源としてきた。中国では土地の私有が認められていないので、販売できるのは使用権だけである。通常70年の使用権が売買される。今世紀に入ってから、猛烈な勢いで新幹線網を整備したのは、地価を上げる目的もあった。既に日本の10倍の総延長距離を持つが、需要のあるところに建設するわけではなく、土地の値段を上げるために過疎地にも建設したことで、いざ完成してもダイヤは1日1往復などというケースもある。
開発した土地には、投機用の巨大マンションが建設されるのだが、既にその戸数は14億もの人口を数倍上回っているという指摘もある。要するに借り手がいない。投機でもうかるから複数物件を所有するのであり、実需として住居用には使わない。
そんなむちゃがいつまでも続くわけがなく、地価下落が起きればレバレッジは一気にマイナスになる。それが引き金になって発生したのが恒大産業の破綻騒ぎである。これだけの過剰供給を作ってしまった後で、市場価格を均衡させるのは相当に長期間を要すると思われる。
中国という大国の経済を支えているのは、輸出と不動産という2大事業である。計画経済的システムによる極端な産業政策がその偏りを肥大化させた。エンティティリストによって輸出が、不動産バブル崩壊による地価の絶望的な下落が今中国の2つのメインエンジンを直撃している。
要するに、中国製BEVの快進撃を支えてきた国の補助金の財源が、今まさに崩壊しようとしている。そのインパクトがどの程度であるのかはまだ何ともいえないが、どう考えてもプラスにはならない。むしろマイナス幅がどの程度で収まるのかが最重要ポイントになってくるだろう。
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