大手新聞社の不動産ビジネスは「東急グループ」に学ぶべき理由:簡単ではない(2/4 ページ)
新聞社や出版社の中には不動産事業に力を入れている企業もあるが、まだまだ経営の柱とはいえない状況だ。不動産ビジネスを進めるなら、東急グループに学ぶべきである。その理由は――。
長期的な利用者に価値を提供するスタイル
東急グループの不動産ビジネスは、「売って終わり」「貸して終わり」という、「狩猟型」のビジネスではない。何らかの取り引きが始まれば、顧客と東急グループの長年にわたる関係性を育てていく、いわば「農耕型」のビジネスモデルである。
丹精込めて地域と顧客を育て、企業も成長していくスタイルを東急グループは採用している。その中で東急電鉄を利用してもらうというのが基本的な考えだ。
分かりやすいのが多摩田園都市だろう。住宅地を販売し、商業施設を設け、街づくりをする。人々のライフサイクルの中で、街自体が維持できるように適宜再開発していくことを基本としている。近年では駅近くにマンションを増やす一方、これまでの住宅地を売却したい人の仲介にも力を入れ、地域の新陳代謝がうまくいくように工夫している。
最近では渋谷エリアの不動産開発もそういった方向性で進めている。地上時代の渋谷駅跡地や線路跡などにビルを建て、渋谷をIT系などのクリエイティブワーカーが集まる地域として発展させようとしているのだ。
例えば複合施設「渋谷ストリーム」には、グーグルの日本法人オフィスが入り、建物には「Google」のロゴが掲げられている。グーグルに入居してもらうことで、施設とエリア自体の価値が上がり、東急グループは家賃をもらうだけではなく企業全体の高評価を得ることになる。
と同時に、渋谷の駅直結にオフィスを構えることで、グーグルの日本法人で働く人に通いやすい場所に位置し、そのことが働く人にとっての利便性をより増大させる。もちろん、東急線沿線に住んでいる人も多いだろう。「渋谷スクランブルスクエア」にもIT企業が続々と入居し、入居企業だけではなく東急グループにもポジティブな影響を与えている。
長期的な関係を築くことが、誰にとっても良いというスタイルのビジネスモデルを東急グループ全体で採用し、その中でも不動産事業が大きな位置を占めている。
不動産ビジネスにはさまざまなものがあるものの、短期的視野に基づくビジネスモデルで利用者を困らせるものもある。東急グループはその正反対のビジネスを行っている。しかも、本業である鉄道とのシナジー効果が極めて高い。
これは、他業界の企業が収益の柱として不動産ビジネスを手掛けていく場合にも、参考になるのではないか。
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