カンブリア宮殿で話題、7割が業務委託の旅行業ベンチャー 結局なにが問題なのか?:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)
テレビ東京の番組で4月に特集されたベンチャー企業が、特殊な人事構成を採用していると話題になった。新進気鋭の成長企業であるが、「従業員の7割が業務委託契約」という特殊な雇用形態が議論を呼んだのだ。
業務委託と「偽装請負」
冒頭のテレビ番組で特集されたベンチャー企業も、メンバーの7割が「業務委託契約」の「従業員」であるという説明のされ方そのものが「偽装請負ではないか」という指摘の根拠となった。
そもそも「従業員」とは、企業と雇用契約を締結した労働者を指す。そのため、雇用関係にない「業務委託契約」の「従業員」という立場は存在しえないが、仮にそのような業務委託人材を従業員のように取り扱っているとしたら「偽装請負」となり、法令違反となる。
偽装請負とは、実質的には労働者として働いているにもかかわらず、業務委託契約という形で雇用されているという状況を指す。これによって雇用者は労働法の適用を避けることが可能で、労働時間や休暇、待遇面での雇用者責任を回避できる。その反面、フリーランサーにとっては労働法による保護が受けられないため、働く環境が悪化するリスクがある。
偽装請負の要件は大きく分けて3点だ。
まずは、業務の内容が雇用者によって指揮監督するようになっているかという点を注意したい。業務委託契約者に対して、業務の進め方や成果物の品質などを詳細に指示・監督することを避け、仮に指示をするにしてもあくまで独立した業務遂行が可能な範囲での指示にとどめることが望ましい。つまり、出社時間や1日の労働時間などを指定することは原則として不可能なのである。
次に、業務の遂行において独立性がなく、雇用者の組織に組み込まれているかについても確認したい。これは、業務上必要な打ち合わせや連絡も無差別に制限するものではないが、業務委託契約者に対して、「特定部門に配属して上司をつけ」る、「上長の指示を仰ぐこと」などの組織のヒエラルキーに組み込んでいく行為も、偽装請負となる可能性がある。
最後に、報酬が業務委託契約によって支払われているにもかかわらず、実質的には労働者としての待遇となっている場合も、偽装請負となる可能性がある。報酬はあくまで業務の成果に応じたものとし、労働者としての固定給や賞与などとは明確に区別する必要がある。従って、請負型の契約であるにもかかわらず、「この金額は正社員でいう10時間分の給料ですよ? あなたはたった1時間でこれを作ったんだから10時間分の給料を払うのはおかしい」などと詰め寄ったり、報酬条件の見直しを要求したりすることは偽装請負となる可能性が高い。
その他、偽装請負だけでなく、さまざまな法令との兼ね合いで違反となる可能性があるため注意が必要だ。
例えば、正社員が副業を行う場合は、同業界など、広範に競業避止義務を定めた上で解禁することも可能である。しかし、業務委託人材に対して競業避止義務を課す上では、独占禁止法の観点から競業避止の範囲が制限される。
確かに、業務委託人材は会社のノウハウや秘密を知りうる立場にあるため、当事者間の合意によってそのような決定も可能だ。しかし、業務委託人材は労働指揮下にはない対等な立場であるため、合意の形成が必要である。仮に、合意がないにもかかわらず強制的に競業避止義務を定めた場合は、優越的地位の濫(らん)用として独占禁止法や下請法違反となるリスクがある。
これらを避けるためには、業務委託契約においては、双方が合意した上で業務委託契約を締結することが重要だ。契約書には、業務の範囲や報酬、期間、業務遂行の方法や知的財産権の処理、契約解除の条件など、双方が納得できる内容を具体的かつ明確に記載することが望ましい。また、契約内容が変更される際には当事者双方が正社員と業務委託契約の違いとメリット・デメリットを十分に理解した上で合意を形成することが求められる。
業務委託契約のメリットである収入の上昇は、労働者にとっては魅力的だが、それが後にコストカットを前提においた不平等な契約であると後で判明したら、会社への信頼は失墜してしまうだろう。企業は、従業員の働きやすさや安全を確保するために、偽装請負などの法令違反を避けるだけでなく、労働者に情報をオープンに共有することで適切な雇用形態を選択してもらい、合意を求めるというプロセスが求めらる。
筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO
1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Twitterはこちら
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