トヨタ、ホンダ、日産「増益と減益を分けたもの」 大手3社の決算をじっくり解説:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/8 ページ)
自動車メーカー大手3社の決算が出そろった。今後数年の予測を含め、全体の傾向および各社の発表内容を見ていこう。
半導体不足の影響はどうか
さて、大きな影響を与える2つの話をしたが、他のポイントはどうなのかといえば、前期に引き続き半導体不足を引きずっている。徐々に回復傾向にあるとはいえ、まだまだ予断を許さない。
半導体不足による自動車メーカー各社の共通した課題は、「せっかく売れても、クルマが作れない」という問題であり、特に前期は受注残高がどんどん積み上がっていた。当該期後半にはだいぶ好転して、各社とも受注残高は縮小傾向ではあるが、受注残をゼロに持っていくのにはまだ時間がかかる。
ただし、これは考え方によっては次のボーナスステージでもある。半導体の手配さえつけば、既に受注残が貯まっているので、フル稼働で生産して一気に業績を上げるチャンスでもある。半導体に関しては、クルマの生産に必要とされるのは、最先端の高集積系半導体ではなく、むしろ枯れた古い半導体である。求められる性能はそれほど高くない。むしろ安価で、丈夫であることの方が重要になる。
適性的には最新鋭の半導体とはむしろ相性が悪い。そこで各社は、旧型半導体の中でも比較的調達しやすいものを多くの車種で使えるように設計の汎用化を進めるとともに、ケースバイケースで、多少新しい世代への入れ替えなども織り混ぜて、半導体調達問題の解決を進めて行った。
これらによって、徐々に半導体不足は収束に向かっているのは事実だが、全てが解決するにはまだ時間がかかるものと思われる。つまり当該期の販売台数増加の差はこの半導体調達オペレーションをどの程度進められたかが大きい。
中国のロックダウン政策も影響
また市場の問題としては、期の前半において、中国政府のロックダウン政策がマーケットの販売数激減を誘発した。ロックダウン解除後はフルコロナ政策と揶揄(やゆ)されたノーガードによる新型コロナの蔓延(まんえん)で、再び景気が腰折れした。悪いことに中国では、不動産バブルの崩壊で中国経済のファンダメンタルズが急速に悪化しており、これによって今後中長期的な販売低下が懸念されている。
一方、米国では金利上昇とインフレによって景気が鈍化しており、多くのメーカーにとって向かい風になっている。通常インフレは景気の上昇に伴って発生するが、今回のように、供給サイドのシステム問題でインフレが発生した場合、景気の上昇を伴わない。
実質的にはインフレというよりはスタグフレーションというべき現象が起きている。現在米国政府のデフォルトが危惧されている状態でもあり、おそらく2、3年の間、米国の景気は厳しいと予想される。
つまり、当該期決算においても今後数年の予測としても、中国と米国マーケットの比率が高い会社ほど厳しい。というのが個社の紹介に入る前の全体解説である。
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