バルミューダ、スマホ事業撤退 失敗の根本はどこにあるのか:本田雅一の時事想々(3/3 ページ)
5月12日、バルミューダはスマートフォン端末の事業から撤退することを発表した。家電製品では多くの消費者を引き付けている同社。一体なぜ、“スマートフォン”では、消費者との相思相愛の関係を築けなかったのだろうか。
今後は強みを生かしたテック製品づくりへ
しかし、これでは初代モデルの進化版でしかない。第一世代モデルにおいて、製品の企画・開発側と消費者の間にミスマッチがあったことが、互いに困惑している理由に他ならない。すなわち、第二世代モデルを作るためには、バルミューダが製品に込める思いと消費者が欲しいと思う要素、両者の情熱が重なる何かを求めての方向転換が必要なはずだった。
その何かを求めて開発が進められ、関連する人員の雇用も進めていたのだから、寺尾社長が第二世代モデルの開発に本気だったことは間違いないだろう。第一世代モデルはソフトバンクが最低の買い取り数をコミットすることでバルミューダを支援していたはずだが、その失敗の大きさから第二世代モデルで同様の取引が可能だったとは想像しにくい。言い換えればバルミューダ自身で、第二世代モデルの開発リスクを背負う覚悟だったのだと思う。
最終的に23年1〜3月期に5億3600万円の特別損失を計上することで事業を清算することを選択したが、同社のダメージはこの数字以上に大きい。決して先進的な技術を強みとしていたわけではないが、鳴物入りで投入した製品ジャンルで発売から2年を経過せずに撤退。サポートも2年間で終了するという事実はブランドを毀損(きそん)しかねない。
あらためて確認するまでもないが、販売時に機能や価値が固定されており、購入後はハードウェアとしての製品寿命を迎えるまで、初期の機能を提供し続けてくれる家電製品と、スマートフォンのようなテック製品は“価値の生み出し方”が異なる。だからこそ、バルミューダ製品はネットサービスやアプリに依存するIoT製品を作ってこなかったのではないか。
そうした意味で、寺尾社長はバルミューダ製品、ブランドの持つ価値や位置付けを正しく認識し、その領域から踏み出さないという賢い選択をしてきた。ちょうど同じ時期にソニー系子会社のQLIOがスマートロックの第一世代モデルをサポートから外すことを発表していたが、寺尾社長は同様の事態を避けるための選択をしてきたともいえる。
それだけに、第一世代モデルの評価が確定した後にも「独自アプリなどで差別化を」と話していたこととの矛盾が気になるが、同社は今後もバルミューダテクノロジーズブランドでの製品作りを継続するという。
「スマートフォン事業のスケール感が大きく、(独自性を出すためには想定以上の)大多額の資金が必要だった」と振り返った寺尾氏。よいチャレンジだったと後悔はしていないようだが、では次にどのような挑戦ができるのか。今後、テック製品ジャンルでの第二弾に挑戦するのであれば、バルミューダ製品の強みとは何かを、あらためて自問自答する必要があるだろう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
年間売上1億、ギョーザで起死回生の東スポ 次に狙う“鉱脈”とは?
購読者数の大幅減少が続くスポーツ紙。多くは一般紙の系列で、存続が危ういところまでは来ていない。後ろ盾がない「独立系」として奮闘する東スポが、起死回生の一手として打ち出したのが「ギョーザ」だった。
ドコモ「保険証での本人確認廃止」をどう捉える? 嫌われ者マイナカードの意義
NTTドコモは5月中旬をめどに、新規契約や各種注文時の「健康保険証での本人確認」を廃止する。この話題をマイナンバーカード強制の動きと捉えて批判する声があるようだが、実際はどうなのか。ITジャーナリストの本田雅一氏が考察する。
ChatGPTってビジネスで使えるの? 訝しむ人が知らない「使いこなし方」
ChatGPTが大きな話題となっている。実際に使ってみて「これをビジネスで本当に使えるのか?」と訝しんでいる方もいるかもしれない。ChatGPTが得意なことと苦手なこととは? ChatGPTを始めとする自然言語AIをビジネスツールとして使う場合のコツや考え方について解説する。
「iPhone 14が売れていない」とささやかれる本当の理由
先日アップルのティム・クックCEOが来日し、日本との結びつきをアピールした。その背後で「iPhone 14が売れていない」というアンケート結果などが話題になっている。こうした話題を正しく読み解くには、アップルを取り巻く市場の変化を知る必要がある。どういうことかというと……。
DAZN、価格爆上げの衝撃──ライブスポーツ独占チャンネルがもたらす光と影
DAZNの月額料金が昨年1月に比べて2倍近くまで値上げした。ライブスポーツを独占するDAZNのこの取り組みは、スポーツビジネスにどのような意味を生むだろうか。その光と影を解説する。


