景表法違反のクレベリンは「やったもん勝ち」だったのか? 売上200億円の大きな代償:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/3 ページ)
空間除菌をうたった販売が不適切だったとして、6億円の追徴金を課された大幸薬品。同商品が生み出した200億円ほどの売り上げと比べればわずかな額だった。株主代表訴訟が提起されているが、損害賠償は保険で賄える可能性がある。となると、不適切な販売は「やったもん勝ち」なのだろうか。
株主代表訴訟、なぜ個人に?
今回被告となったのは、法人としての大幸薬品ではなく、代表取締役個人である。そもそも株主代表訴訟とは、会社の経営者が不適切な行為をした場合、株主がその経営者に対して損害賠償を求めることができる制度だ。
会社の所有者は「代表取締役」というイメージも強いが、代表取締役などの役員はあくまで会社の所有者である「株主」から委任を受けた者にすぎない。従って、その関係性に背くような不適切な販売手法の意思決定を行った委任者である経営者が、会社に損害を与えたとしたら、その所有者である株主に損害を賠償しなければならない、ということになるのだ。
仮に興和の請求が認められた場合、大幸薬品の代表取締役は個人資産で自社の時価総額の半分以上になる95億円もの賠償責任を負うことになる。しかし、このような天文学的な金額を個人で賠償できるのだろうか。
こうした場合、株主代表訴訟に対する保険制度が利用できる可能性がある。これは主に「役員賠償責任保険(D&O保険)」と呼ばれる保険で、企業の役員がその職務上の過失により損害を与えた場合、その損害賠償責任を補償するものである。
特に、役員が不適切行為や経営判断のミスを犯した場合に、株主代表訴訟が起こる可能性があるが、このようなリスクに対してD&O保険が存在する。
ちなみに、D&O保険の対象となるのは、会社の役員だけでなく、監査役や非常勤役員なども含まれる。保険金は会社だけでなく、個人の役員にも直接支払われるため、今回のようなケースでも賠償金を保険でカバーできる可能性がある。
しかし、D&O保険も故意の違法行為や犯罪行為については対象外となるケースがほとんどで、適法な経営活動の中で柴田氏の経営判断が故意または故意と同視できるレベルまで誤っていたかが争点となってくるだろう。
今回のケースでは、まず興和の株主代表訴訟の請求が認められるかが争点となり、仮に認められたとしても保険でカバーできれば個人へのダメージは軽減、ないしは免除されることになる。
大幸薬品はクレベリンで200億円ほど売り上げたにもかかわらず、わずか6億円のみの課徴金しか課されず、代表者も保険でカバーされる可能性があるとなると、不適切な販売でも「やったもん勝ち」とも思われそうだ。
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