コロナ後に乗客が「戻る」「戻らない」 鉄道会社の“読み”はどちらが正しかったのか:戦略を検証(4/4 ページ)
コロナ禍で減便をした鉄道会社もあれば、計画通り運行した鉄道会社もある。人の動きが戻ってきた今、どちらの戦略が正しかったといえるのか。
どちらの戦略が正しかったのか
コロナ後に乗客が「戻らない」としていたJR東日本ほか首都圏鉄道、「戻る」としていたJR東海を比べると、JR東海のほうが戦略は正しかった。
首都圏の通勤電車、特に山手線などは平日昼間でも乗車人員が多いため、間隔が開き列車が減ったぶん、1つの列車に多くの人が乗るようになる。つまり混雑はあまり変わらないのである。ある程度ゆとりを感じられる車内環境を乗客に提供する、という考えがあってもいいはずだ。
JR北海道のように「厳しい」とされている鉄道事業者でも、人の流れが元に戻ったら主要路線ではそれなりに乗客がいる状況になる。混雑させてサービスが低下してしまうのだ。
コロナ禍前、鉄道業界では「人手不足」が問題になっていた。特にメンテナンス関連の人員が足りず、もっと深夜帯のメンテナンスに時間をかけたいという事業者は多かった。
また、終電近くの時間帯の利用者が減っている状況がそもそもあった。遅い時間までの残業や飲み会などが減っていて、終電の繰り上げなどを行う環境は整っていた。
多くの鉄道事業者は、コロナ禍という危機的な状況に対し、鉄道利用がこの後も一気に減っていくことを、深刻に考えていた。その結果が相次ぐ減便ダイヤ改正であった。
ただ、コロナ禍が続く中で人を「密」にするのはどうなのか、という疑問が出てくるのもおかしくはない。ここで列車の本数を減らさずに、ある程度ゆとりのある環境を提供しようという発想にならなかったのは今となっては疑問である。
コロナ禍を機に、コスト削減のために減便を行うという考えが鉄道事業者の戦略としてあったのではないか? といったうがった見方もできなくはない。終電の繰り上げなどは理解できるものの、普段の時間帯のサービス削減は、コロナ禍に乗じてやっていいことなのか? とも考えられる。
本来ならばこの秋あたりに、首都圏エリアの本数増を目的とした臨時ダイヤ改正を各事業者で行う必要があるかもしれない。
運賃の値上げなどはある程度許容できる社会情勢になっているので、サービスの「質」向上をポスト・コロナの鉄道事業の戦略として考えてほしいものである。
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