覇者イオン、コスモス、カインズに勝てるのか 中堅中小の「合従軍」戦略:小売・流通アナリストの視点(3/4 ページ)
スーパー、ドラッグストア、ホームセンターの上位企業の多くがM&Aで規模を拡大してきた。上位企業による下位企業の買収というのが自然と多くなる一方、下位企業が同盟するように経営統合して対抗するというパターンもある。
スーパー業界のM&Aトリガー、イオン
さて、スーパーマーケットの業界においては、何がM&Aのトリガーとなってきたかといえば、答えは一択、「イオン」だということになる。いまや国内のスーパー、総合小売において、全国展開しているのはイオンとドン・キホーテしかない。図表2はスーパーやディスカウントストアなどのグループ単位での売上ランキングを示したものだが、今やイオングループは5.9兆円となっており、2位PPIH(ドン・キホーテの持株グループ)の1.8兆円の3倍以上の規模で引き離す圧倒的な存在となっている。
巨大化したイオンのスーパー事業は地域毎の競争環境においても全ての地域でシェアトップクラスを確保しており、業界の競争環境は、おおむねイオン対リージョナルトップ(地域有力企業)となっている(図表3)。イオンがM&Aを軸として各地でシェアアップを続けてきた中で、地域のスーパーが対抗するための同盟的統合も各地で起こってきた。元祖ともいえるのが、北海道、北東北のアークスであるが、他にもアクシアル リテイリング(新潟、北関東)、リテールパートナーズ(九州北部、山口)など、生き残るために地場スーパー同盟ができている。こうした「合従軍」は強大なイオンに対抗するために有効な選択なのであろうか。
アークスは札幌のスーパー、ラルズが中心となって2002年以降、福原(帯広市)、ふじ(旭川市)、札幌東急ストア(現:東光ストア、札幌市)など、複数の道内スーパーを次々に持株会社アークスの下に、経営統合した合従連衡型の企業。統合に参加した企業を垂直統合するのではなく、各社を同盟企業として自主性を尊重する姿勢を、八ヶ岳に多くの峰が連なる様子を模して、「八ヶ岳連峰経営」と称している(図表4)。
11年には北東北における最有力スーパーといわれるユニバース、12年には岩手のジョイス、14年には岩手のベルプラス(後に両社は統合して、ベルジョイス)が参加、北東北でもその存在を確立した。会社資料によれば、アークスのシェアは北海道25%、青森30%、岩手40%とトップシェアとなっており、地域最有力企業としての地位を守り続けている。その後も19年に伊藤チェーン(宮城県、売上134億円)、21年にはオータニ(栃木県、売上295億円)が合流したアークスの売上は5662億円に達し、スーパーの企業集団として国内6位の存在となっている(図表5)。
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