阿波おどりの“1万5000円”VIP席が物議、100万円でも完売した青森ねぶた祭と異なる3つのポイント:踊らにゃそんそん(2/4 ページ)
徳島市の夏の風物詩、阿波おどり。400年の歴史を持つとされ、新型コロナウイルスの流行前には国内外から100万人を超える観光客訪れる一大イベントです。2023年は8月11〜15日に開催予定で、新たに特別観覧席(VIP席)の設置が発表されました。
顧客の納得感を生む提供価値とは
阿波おどりのVIP席が設置されるのは、有料の演舞場である南内町演舞場です。演舞場内にはVIP席のほかにSS席、S席、A席、B席、C席があり、席のランクによって観覧場所が異なります。100席限定のVIP席は、唯一踊り連を正面から観覧できる位置に設置され、迫力のある演舞を楽しめるのがアピールポイントとされています。
実はコロナ禍以前には、今回のVIP席と同じ位置に「特別席」が設置されていました。19年の実施報告書によれば、当時の特別席の価格は5000円(前売り料金)で席数は計112席。価格には席代金のほかに、お土産のグッズ代も含まれていました。
この特別席、有料席のなかで最も販売率が高く、発売早々に売り切れており、高い人気が伺えます。
今回1万5000円で売り出されたVIP席はこの特別席と同じ位置にあり、座席数もほとんど変わっていません。
過去に特別席を購入していた顧客からすれば「正面から踊り連を観覧する」という価値が変わらないまま価格だけが3倍に跳ねあがった格好で、しかも今回についてはお土産のグッズもなしという状況。価格に対する提供価値が大幅に低下したと捉えられても仕方がないといえるでしょう。
こうした経緯を踏まえて客観的に考えると、阿波おどりのVIP席が1万5000円分の価値を提供できているかについては疑問が残ると言わざるを得ません。
では、青森ねぶた祭では100万円という高額な価格に対する提供価値をどのように設計したのでしょうか。
青森県と連携し、プレミアム観覧席を提供したオマツリジャパン(東京都練馬区)が発表したリリースによれば、22年のVIP席はホテルの敷地内に設けた2階建ての大型桟敷席に設置し、目の前を通過するねぶたを見渡せる特別な体験を提供しました。それだけにとどまらず、地酒と食のペアリングを味わったりねぶた師による解説を聞いたりと、まさにVIP待遇のコンテンツを用意。座席専属コンシェルジュも配置するなど、至れり尽くせりのプレミアム体験を提供したようです。
こうした100万円ならではの付加価値は、言うまでもなく顧客満足度に大きく寄与したでしょう。
また「快適な空間で人混みをかき分けずに見られて、プライスレスな体験でした」という利用客の声からも分かる通り、完全に独立したVIP席は、祭りの人混みを避けたいという顧客のニーズを満たし、祭りが元来持っていたデメリットの要素を埋めることに成功しています。同様に、ねぶたが通過するまでの待ち時間が長いというマイナス点は、飲食や解説といったプレミアムな体験でカバー。ただの退屈な待ち時間を、顧客が価値を感じられる時間へと転化することにも成功しています。
顧客にとっての価値は、単にプラスアルファの特典やサービスを加えることだけではありません。ネガティブ要素をうまく解消することも、大きなメリットになり得るのです。顧客が何に価値を感じるか、逆に何に不満を感じているかを突き止めることは、顧客の納得感を得るプライシングにとって肝心なポイントです。
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