「タテシナ会議」で、TRIギル・プラットCEOが語った未来:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)
長野県茅野市で、4年ぶり2回目となる「タテシナ会議」が開催された。自動車メーカーやサプライヤー、業界団体のトップなど、そうそうたるメンバーが名を連ねたが、そこでTRIのギル・プラットCEOが語ったことは……。
マズローの欲求5段階をベースに語られた自動車の安全技術
23年のタテシナ会議では、特にTRI(Toyota Research Institute:トヨタ自動車の在米研究機関 主にコンピュータを駆使したAIや素材開発などを受け持つ)のギル・プラットCEOのプレゼンテーションが興味深かった。同氏は、米国の心理学者アブラハム・マズローの欲求5段階をベースに、自動車の安全技術について、極めて画期的な説明を行った。多分に哲学的な説明ではあったが、即物的になりがちなテクノロジーの話を哲学的に説明したが故に画期的であった。
ギル・プラット氏。1961年生まれ。マサチューセッツ工科大学を卒業し、同校で教授を務めた後、米国国防総省国防高等研究計画局でロボティクスの第1人者として活躍した世界的サイエンティスト。16年にTRIのCEOに就任
プラット氏は、マズローの唱える“欲求5段階説”を下敷きに、最も基本的な「生理的欲求」や「安全欲求」から、その上位の「社会的欲求」や「承認欲求」「自己実現欲求」層まで、“安全”と“愛”の両方を正しく実現することによって、テクノロジーはより善き方向に導かれることに加え、日本の自動車産業にとっても、人工知能時代において、世界のリーダーシップを取りうるチャンスであることを説明した。
よく言われることだが、技術はフラットであり、それを善きことに使うか、悪しきことに使うかは、使う人の善性の問題である。プラット氏はプレゼンの中で、G7広島サミットの際に自ら撮影した原爆ドームの写真のスライドを見せた。もう1つ、同氏は母校であるマサチューセッツ工科大学にあるWalker Memorial Dining Hallの壁画「神のように善悪を知る者となる」(リンク先最末尾の絵)を示し、テクノロジーの2面性を表現した壁画であると説明した。
マズローの欲求5段階は、「われわれは何を以って、技術を善きことに導いていかれるのか」をも示すことができるとプラット氏は言う。
5段階のうち基礎の2段階は、いわば人の生物的本能に基づくものであり、フロイトの言う、快楽原理に従う“イド”である。
その上の2段階は他者からの評価に対するもの。つまり剥き出しのイドを制御して抑制・コントロールすることで社会と共存する“エゴ”であり、それに倣えば最上の1つは自らによる自らに対する評価に依拠する“スーパーエゴ”になる。
イドの領域からエゴの領域に進むためには、他者、つまり社会の存在が不可欠で、望ましき社会は本質的に愛に支えられると言うのである。
つまり技術は、“人に善かれ”という利他の願いで1歩進み、次いで自らの理想の高みを目指すことで、さらに先に進むことができる。つまり愛とは利他であり、時にイドと対立する。そう説明した。
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