もはや東京郊外ではない!? 関東の鉄道新線は「県都」に向かう:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/5 ページ)
東京都市圏も大阪都市圏も鉄道新線計画が多く、そのほとんどが通勤路線だ。東京の周辺都市は、鉄道の発達とともに「東京通勤圏」として発展してきた。しかし近年の鉄道構想は「県都通勤圏」の充実にあるようだ。神奈川県、埼玉県、茨城県、栃木県の県都アクセス路線構想を俯瞰(ふかん)してみた。
神奈川県:横浜市営地下鉄ブルーライン延伸
神奈川県の県都は横浜市だ。神奈川県庁の最寄り駅はJRの関内駅、あるいは横浜高速鉄道みなとみらい線の日本大通り駅になる。JR横浜駅から離れているけれども、これは横浜駅が移転したからだ。旧横浜駅は現在の桜木町駅にあった。そして神奈川県庁が当時の横浜駅よりも国際港の大桟橋に近いとは、いかにも横浜らしい。
横浜駅を通る路線はJR東海道線、JR京浜東北線、JR根岸線、JR横浜線(東神奈川駅より京浜東北線直通)のほか、東急電鉄東横線、横浜高速鉄道みなとみらい線、京急電鉄本線、相模鉄道本線、横浜市営地下鉄ブルーラインだ。神奈川県内から県都横浜に向かう路線は充実しており、もう十分……ではなかった。神奈川県、そして横浜市にとっては、気がかりな地域がある。多摩田園都市だ。
東急田園都市線沿線地域は東急グループが開発しただけあって、渋谷へ向かう人々の流れが圧倒的に多い。行政区が緑区だった頃は「東京都緑区」と揶揄(やゆ)された地域である。その後緑区は分割されて、田園都市線沿線は「青葉区」となったけれども、「東京都青葉区」という印象は否めなかった。この地域の人々は通勤も通学も買い物も東京志向だった。
そこでつくられた鉄道路線が、横浜市営地下鉄3号線の延伸だ。港北ニュータウンのアクセス路線として建設され、1985年に横浜〜新横浜間が開業し、1号線の上大岡〜横浜間と接続して直通運転が行われ、のちに1号線と3号線は合わせてブルーラインという愛称が与えられた。
ブルーラインは1993年に港北ニュータウンを貫いて東急田園都市線のあざみ野まで開業。これで多摩田園都市から横浜駅までのアクセスが改善された。さらに従来は長津田駅経由だった東海道新幹線新横浜駅のアクセスも改善された。新横浜駅は相鉄と東急の直通運転が始まっている。ブルーラインの新百合ヶ丘到達で、交通結節点としての役割が大きくなる。
現在はブルーラインにおいて小田急電鉄小田原線新百合ヶ丘駅まで延伸が決定し、環境影響評価の作業中だ。開業予定は2030年となっている。延伸先には横浜市北部で大規模なすすきの団地がある。その先は横浜市営地下鉄でありながら、川崎市北部の駅にもつながり、小田急線の川崎市内駅も県都へアクセスしやすくなる。さらに小田急線の都内区間から新横浜駅へ向かうルートとしても期待できそうだ。
神奈川県内で残る鉄道空白地帯として藤沢市北部、綾瀬市がある。藤沢市北部には相模鉄道いずみ野線の延伸計画があり、神奈川県、藤沢市、慶應義塾大学、相模鉄道が「いずみ野線延伸の実現に向けた検討会」に参加して検討結果をとりまとめた。相模鉄道いずみ野線は二俣川で相模鉄道本線に乗り入れて横浜駅まで直通する。延伸が決定すれば鉄道空白地帯が県都直通エリアになる。
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