もはや東京郊外ではない!? 関東の鉄道新線は「県都」に向かう:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/5 ページ)
東京都市圏も大阪都市圏も鉄道新線計画が多く、そのほとんどが通勤路線だ。東京の周辺都市は、鉄道の発達とともに「東京通勤圏」として発展してきた。しかし近年の鉄道構想は「県都通勤圏」の充実にあるようだ。神奈川県、埼玉県、茨城県、栃木県の県都アクセス路線構想を俯瞰(ふかん)してみた。
茨城県:つくばエクスプレス土浦延伸
茨城県の県都は水戸市である。水戸駅につくばエクスプレスを延伸する構想があったけれどもかなわなかった。つくばエクスプレスの茨城県内の延伸構想は50年頃を目標としており、土浦駅案、水戸駅案、茨城空港案、筑波山案の4方面があった。23年6月23日の茨城県知事の定例会見で土浦駅の決定が発表された。
土浦でとどまってしまうけれども、その先に水戸駅がある。これもやはり、人流を県都へという発想だ。つくばエクスプレスは東京・秋葉原と茨城・つくばみらい市を結んでいる。しかし、つくばみらい市の人々のほとんどが、かつての多摩田園都市のように東京志向になっている。茨城県としては「東京都つくばみらい市化」を見過ごせない。
もともとつくばエクスプレスが東京と千葉・埼玉・茨城の鉄道空白地帯を結ぶほか、乗り換えを強いられた東西路線の沿線都市を東京方面に直行させる目的で建設された。東京都市圏の通勤路線という生い立ちだ。
さらにさかのぼると常磐線の混雑緩和を目指す「第二常磐線」構想があった。これは千葉県が秋葉原〜我孫子の路線として挙げていたけれども、1985年の運輸政策審議会答申7号で「常磐新線」として東京〜守谷〜筑波研究学園都市になった。1989年に「大都市地域における宅地開発及び鉄道整備の一体的推進に関する特別措置法」が制定され、つくばエクスプレスは出資自治体とともに住宅開発を前提とした鉄道建設を進めた。
その後は予想以上に好調に推移し、増発と車両の増備が進められ、現在は6両編成の列車を8両編成にすべく、駅のプラットホーム延伸など対応工事が進んでいる。つくばみらい市の沿線は活気があふれている。しかし、その勢いが茨城県の県都、水戸市まで届かない。つくば駅〜土浦駅間は1時間当たりバスが3往復、所要時間約30分だ。この区間でつくばエクスプレスを延伸すれば、つくば駅だけではなく、つくばエクスプレス沿線の千葉県、埼玉県の人々も茨城県と往来しやすくなる。
さらに、土浦からJR常磐線に直通運転ができれば、自社単独ではないにしても「県都直通」を達成できる。問題は費用便益比の試算が「0.6」にとどまり、鉄道の建設効果が発揮できる「1.0」を超えていないところだ。円安による諸物価高騰の折、事業費のコストダウンは難しい。そうなると利用者数を増やす方向で考えるしかない。
沿線の土地利用率も低いので、もう一度「大都市地域における宅地開発及び鉄道整備の一体的推進に関する特別措置法」の適用を受けて開発したほうがよさそうだ。この地域から東京へ行きやすくなるかもしれないけれど、沿線地域から土浦に行きやすくなる利点もある。
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