地方百貨店の苦境は「仕方ない」こと? 住民の生活を脅かす“大問題”が潜んでいる:小売・流通アナリストの視点(2/3 ページ)
2極化が進んでいる大手百貨店と地方百貨店。また1つ百貨店がない県が増えるなど、厳しい状況が続いている。ぜ地方百貨店がなくなるのか、本当の要因をデータで詳細に分析してみた。
地方百貨店の競争相手は誰か
一畑百貨店の売り上げピークは、02年の108億円であったとされているが、22年には43億円にまで落ち込み、往時の40%(6割減)にまで減少しているということになる。そこで、02年と22年の外部環境データ(人口、市場規模など)の変化がどのくらいなのかを見てみた(図表2)。
島根県の人口は02年の75.6万人から22年の65.7万人に減少し、02年比87%となっている。また、市場の目安となる小売販売額(経済産業省統計)では、02年比80%に減少している。これらを踏まえると、人口減少による市場縮小の影響はおおむね2割弱、という感じである。
ECの影響については、県別の統計などがないため、経済産業省の電子商取引に関する市場調査(20年度)というデータでざっくり見ていく(図表3)。このデータでは商品別にEC販売額の全国合計値として示されているので、ここから百貨店の主力商品である、化粧品、生活雑貨、衣料品などを抜き出し、どのくらいがECで取引されているか合計値を算出。全国からみた島根県の人口比率である目安の数値を計算すると、272億円になる(実際には高齢者比率の高い島根県民のEC取引額はこれより小さいと思われる)。
百貨店の主要販売品目の合計額(④+⑤+⑧)=5兆1312億円
島根県人口÷全国人口=0.53%
島根県の推計EC販売=5兆1312億円×0.53%=272億円
02年時点ではEC取引はほとんどなかったと仮定する。この額がほぼ、小売のECシフトの目安と考えれば、02年の小売販売額(8113億円)の3.4%になる。この結果を踏まえると、ECが百貨店に与えた影響はそこまで致命的ではないことが分かってくる。
最後に、百貨店、総合スーパーなどの売り上げを集計した大型小売店販売額をみると、ここは4割減になっている。大型ショッピングセンターに関して統計はないのだが、全体から大型小売店を引いた数値が、ショッピングセンターに入っている専門店チェーンの売り上げ合計を中心としたものだと考えれば、この数値は8割以上を保っており、人口規模と同じ動きを示している。そのあたりを考えれば、百貨店は市場縮小というより、競合である郊外型大型ショッピングセンターに顧客を奪われたことで経営基盤を失った、と解釈してもいいのだろう。
関連記事
- 拡大続くドンキ帝国 「長崎屋」「ユニー」買収で限界突破できたといえるワケ
ドン・キホーテを中心とした小売グループであるPPIHが、目覚ましい躍進を続けている。この30年における日本の小売業で最も成長した企業といってもいいだろう。PPIHが国内屈指の売上規模にまで成長した背景には何があるのだろうか。 - なぜ、イトーヨーカ堂とヨークは合併するのか 見据える3年後の布石
セブン&アイ・ホールディングスは6月16日、イトーヨーカ堂とヨークを9月1日に合併すると発表した。「物言う株主」たちがイトーヨーカ堂の撤退も含んだ改革を経営陣に要求し続けている中、今回の合併にはどのような狙いがあるのだろうか。小売・流通アナリストに聞いた。 - 覇者イオン、コスモス、カインズに勝てるのか 中堅中小の「合従軍」戦略
スーパー、ドラッグストア、ホームセンターの上位企業の多くがM&Aで規模を拡大してきた。上位企業による下位企業の買収というのが自然と多くなる一方、下位企業が同盟するように経営統合して対抗するというパターンもある。 - アマゾン「プライムデー」で実験的取り組み プライム会員増へ2つの新施策
アマゾンジャパンはAmazonプライム会員向けセール「プライムデー」を7月11〜12日に開催する。今回のプライムデーでは、初の試みを2つ実施するという。 - Gap「最後の旗艦店」閉店は、必ずしもマイナスではない!? アパレルのイロハ、専門家に聞く
米ギャップの日本法人ギャップジャパン(東京都渋谷区)が、旗艦店「Gapフラッグシップ銀座」(東京都中央区)を7月31日に閉店する。最後の旗艦店閉店は、ブランドにとってマイナスしかないのではないか。専門家によると、必ずしもそうではないようだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.